純心と屈折と/少年に心を掴まれた少年
その8



正面で向きあって目を合わせた二人のその視線は、すぐに互いのカラダへと移っていた。
それは、何気に見定めするように…。


そして、少なくとも律也は胸をときめかせていた。


***


「ああ、オレ…、1組の前の方だったんだけど、トイレ行ってたんで…」


律也はちょっと緊張したが、必然性のある”アイサツ”として、自分からユウトに言葉をかけた。
すると…、さわやかな笑顔のユウトからは、すぐにリターンがきた。


「うん、先生から聞いてた。…キミさ、入学式の前の日曜日、○○町の児童館に来てたよね?」


律也は一瞬、あっけにとられた。
まさかあの時、自分がその場にいたことをユウトが承知していようとは予想もしていなかったのだ。


”目を合わせた記憶がないのに…”


***


「‥あの8段跳び、見たよ。背は高くないのに、凄いよ。びっくりした」


「跳べるまでは、けっこう練習したんだ。あの児童館で…」


「そうか…」


「おい!1組のキミ、前が進んだぞ。よそ見してないで、後ろがつかえてるから早くしなさい」


ここで、後ろを振り向いて他のクラスと”おしゃべり”をしていた律也は、付きの先生から注意を受けた。


「あ…、はい!」


彼が慌ててそう返事をすると、ユウトはにっこりと笑っていた。
コトバにできない程の爽快極まるスマイルで…。


律也は、そんなステキな彼の笑みから視線を外すのを内心惜しみながら、前に向き直ると、急いでスミオの後ろへと急いだ。


***


上半身ハダカを互い見せあうことができ、コトバを交わせた…。
律也としては、当面の目的が達成できたと言える。
しかも、予期せぬことだったが、彼は自分のことを知っていてくれたのだ。


さらに彼との会話で、律也の次の起こすべき行動も定まった。


”児童館に行けばユウトと会える。今度の週末、行ってみよう。一人で…”


彼は自分に言い聞かせるようだった。
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