結ばれない二人
手をひかれるままに乗り込んだ満員電車。
週末の終電はかなり混んでいる。

ここから3駅先に私たちの住むマンションがある。
都心から離れたその場所は、私たちが生まれ育った故郷と同じような緑がある。
決して多くはないけれど、少しでも故郷を思い出せるような緑があると、ほっとする。

「朱莉?平気か?」
満員電車の中。
扉のすぐ前に立つ私がほかの誰からも触れられないように、あなたは私の前に立っている。
うつむいたままだった私。
握られた手をじっと見つめていたままだった。

私は何も考えたくなくて。
何も見たくなくて。
現実から離れたくなって。
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