一条さん結婚したんですか⁉︎




 昨日、瞬く間に社内へと広がった【一条王子退社騒動】により、会社内の一条親衛隊等は、近隣の飲み屋を占領し、一条氏を惜しむ会なるものを早朝まで繰り広げたらしい。


 目の前の景色が霞んで見える。我らのやる気の源、一条 美郷。


(拝める神が居なければ、私たちは何に縋ればいい....)


 二日酔いならぬ、今だに酔っ払って上機嫌な人も居れば、完全に酒が抜けて絶望の淵に立たされた人もチラホラと....。



 現実逃避をかます一条ロス現象。


 近隣の酒場の店主等は語る....。


『あれでしょ?社内のアイドルが辞めちゃうんでしょ?』

『まあみんな可哀想だけど、ウチとしては、昨日の売り上げでホクホクですよ。』



 たった一夜の売り上げが、例年平均値の一週間分以上を上回った自棄酒の会。


 彼、一条 美郷の影響力....芸能人ですか⁉︎



 そしてその影響は、一条と同じ営業部が甚大な被害を受けていた。


「どうしよう。一条さんに辞められたら、この会社潰れるんじゃないか⁉︎」

「係長代理〜いや、一条さ〜ん。寧ろ係長、いや部長よりも仕事出来るのに、辞められたら困る‼︎」

「イチイチイチイチチチチッイチッジョッーーー‼︎‼︎‼︎」



(あらあら氏ってば、気付かぬ内に大黒柱になってしまっていた様で....。)




 翌日の朝から大パニックの社内。
 

 社内で滞りなく回っていたサイクルが乱れまくる最中、某受付嬢も又、夜中まで大号泣の酒盛りをした内の一人。


「うゔ....一条さんの居ない会社なんて、居る意味ないっ....。」



 行き交う出社ラッシュの波に、キラキラ王子様の姿は無い。

 チビ、デブ、不細工、地味、ハゲ、平均....冴えない男性陣を観て、彼女はそっと涙を流す。


 泣き腫らした顔、いったい何箱ティッシュを消費したのだろうか。


 目の保養、あわよくば一条さんの女になりたかった。

 だけど、先日結婚したのだと、嬉しそうに愛しそうに、奥様を抱き締めていた王子様。


 あんな姿を見てしまったから、余計に悲しい。


 暗黙の了解、一条さんはみんなのモノ!抜け駆けしようものならば、他の女豹に駆られる。


 だけど、こんなのアリ?


 一条さんが結婚してしまって、そして会社から居なくなる?




「一条さん辞めないで〜....!!!!」


「おはようございます。俺、辞めませんよ?」


 突如、不意打ちで頭上から降ってきた甘くて優しい声。


 受付嬢は驚き、恐る恐ると見上げた。





(....いっ一条さんっ⁉︎)
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