一条さん結婚したんですか⁉︎


 エリートサラリーマン一条 美郷(・・ ・・)の出勤風景を覗いてみよう。



「なにあのイケメン⁉︎」

 
 朝の通勤ラッシュ、満員電車内だというのに、スマホを器用に操作しながらも、凄まじい体幹を魅せるナイスガイ。近くに座っていたJKが騒ぎ立てる。


 彼の見つめる先には、一条 花(・・ ・)からのメッセージ。アイコンはブサカワフレンチブルドッグ。



『今日のお弁当は、時間が無かったので日の丸弁当です。』


 ギリギリの時間まで、愛し合った代償は、質素なお弁当なのである。


 だがしかし、旦那様。奥様の手料理ならば何だって嬉しいのです。


『同僚に見せびらかします。』

『それは是非ともやめてください。恥ずかしいので、』

『なにを言ってるんですか、花ちゃんのお弁当ですよ⁉︎愛妻弁当は男のロマンです。』



 そして本当にこの男は、同僚達に自慢の妻の手抜き弁当を自慢していたのだ。



(え、一条さんが日の丸弁当?)



 辛うじて隅っこに押し込まれた焼き鮭の塩味に白米を噛み締め、少々甘酸っぱい梅干しで、初恋気分を味わうのだ。



「一条さん、結婚したってマジっすか⁉︎」

「超マジ‼︎いいよ〜結婚。お前も早く相手見つけろよな。」



 某大企業の営業ホープ。容姿端麗、頭脳明晰、文武両道の才色兼備と名高い係長代理様。


 
『花ちゃんのお弁当が美味し過ぎて、幸せを実感出来ました。今夜も寝かせません(笑)』


『勘弁してください。てか、ちゃんと寝ろ。』




 あの一条氏を罵れるのは、妻の花だけである。



「でも結婚だなんて、また急でしたね。」

「俺が無理言って上手いこと囲っちゃったんだよね〜。」

「(なにそれ羨ましいっ‼︎‼︎)」




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