必ず、まもると決めたから。

重い方のノートの山を持った田中くんが扉を開けてくれたので、私もいつものように扉を閉める。

段々と蒸し暑くなり、普段使われていない数学準備室の中は生暖かい空気が漂っていた。


「大丈夫か?」

「……」


ノートを置くと、背を向けたまま田中くんがそう聞いてきた。


「…永井のこと、大丈夫か」

「大丈夫そうに見える?」


苛立ちを隠せずにそう答える。

そうやって心配している素振りを見せてくれるのも同じ数学係だから?そんな友達以下の理由で心配されたくない。


「……」


「いいよ、私の心配なんかしなくて」


まぁあなたは優しいから気になるでしょうけど、先生に相談してもきっとどうにもならないし、だからって私たち生徒で解決できることでもないし。なるようにしかならないんだ。

…って、私、どんどん嫌な性格になってるよ。


「……」


何も言わない。
話したくないなら、それでいいよ。もうどうでもいい。


「次の授業、始まるから戻ろ」


そう言って田中くんの横を通り、扉に手を伸ばす。

否、伸ばしかけたところで田中くんの方が先に扉に手をつき、開けることを阻んだ。


「なに?」

「護るって言っただろう」


今の私にはその言葉は無神経以外のなにものでもない。


「愛ちゃんにもそう言ったの?」

「……なんで、そう思うの」


扉の前に立ったまま田中くんは言葉を続けた。


「俺、お前以外の奴を護りたいと思ってないし、どうでもいいんだけど」


嬉しいことを言ってはくれたけれど、今の私に彼の言葉は響かない。


「愛ちゃんと、勉強会したんでしょ?」


おまえだって賛成しただろう。
そう言って怒られた方がいい。

だって田中くんは冷静で、苛立つ私に比べてひどく落ち着いているのだから。

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