必ず、まもると決めたから。
1週間前ーー高校の入学式から半月経ったその日、隣りの席の田中くんに私から声をかけた。
「田中くん、同じ数学係だね。よろしくね」
実は入学して以来、一度も彼と話をしたことがない。いや、彼が誰かとお喋りをしているところすら見たことがない。いつも「ああ」や「うん」などの短い返事のみで、会話は即終了だ。
耳元まですっぽり覆い隠す長めの黒髪が暗い印象を与え、前髪は彼の目を覆い隠す。なによりいつも俯き加減で、授業の時でさえ前を向く頻度は少ない。
たまに授業を聞いているのかすら分からなくなる。同じように思った先生に不意打ちで当てられることもあるけれど、その正答率はなんと100%だ。
175センチと身長は高く細身でいつも忙しそうに足早に歩いている。背筋は伸びているけれど、下を向いているためせっかくのスタイルの良さを活かせていないんだ。
「ああ」
ほら、また同じ。
「……」
中学でいじめられていて馴染めないのかも、そんな噂がクラスを飛び交い、最初のうちは各々話しかけていた。だけどそっけなく返され続けてそれ以上、話し続ける根気の良い生徒はうちのクラスにはいなかった。半月も経つと仲良しグループは形成されていて、どこにも属さない田中くんは浮いている。
「あ、私、青山 千咲です」
「…知ってる」
「あ、良かった」
どうやら名前は覚えてもらえていたようだが、相変わらず俯き加減の田中くんとは目が合わない。
「と、とにかくよろしくね」
口下手な私は会話を続けるような話題が見つからず、席に戻る。
苦手なタイプだ…そう思ってしまった。