必ず、まもると決めたから。

「田中くん、いつもノートの重い方を持ってくれてありがとう」


田中(たなか) 桜誠(おうせい)

素敵な名前だと思うけれど、この学校では彼を名前で呼ぶ者はいないことが残念だ。同じ田中という苗字の男の子は学年に2人いて、彼らは名前で呼ばれているから実質、"田中"と呼べば、桜誠くんを指す。


私は、本当に素敵で、綺麗な名前だと思っているけれど、恐れ多くて本人には伝えられずにいる。

桜誠くんと呼べるほどに打ち解けてみたい気もする…。


「……」


ひょいっとノートを片手に持ち変えた田中くんは無言で数学準備室の扉を開ける。

また無視か…。


先生に指定された場所にノートを置いて、言葉を交わすことも目を合わせることもなく、私たちは解散だ。うん、いつも通り。


「いつもお昼を教室で食べてないよね。どこで食べてるの」


この日、初めて私は田中くんに雑談をふってみた。
ただ気まずい雰囲気を変えたかっただけだ。

しかし聞こえなかったかのように、足を止めることもなく田中くんはすたすたと廊下に出て行ってしまった。

いやいや、絶対に聞こえてたでしょう!

そもそも気まずいとか、話したいとか、そんな風に思っているのは私だけのようで、盛大にため息をついた。


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