星と月と恋の話
ここまで女子力の差を見せつけられてしまうと。
私はもう、まな板の上の鯉よろしく。
結月君の好きなように、美味しく調理されてしまうしかなかった。
…っていうのは、冗談で。
結月君は私の素足を自分の膝の上に乗せて、跪くようにして地面にしゃがみ込み。
出血している部分に、一つずつ絆創膏を貼ってくれた。
泣きそう。
更に。
「…応急処置ですけど…これ、巻いておいてください」
右足には、先程のハンカチを。
そして左足には、これまたリュックから取り出した手拭いを水で濡らし。
それを、私の腫れた爪先に、ぐるぐると巻いてくれた。
冷たくて気持ち良い。
それに、絆創膏をしてもらったお陰で、痛みがだいぶマシになった。
「ありがとう…」
本当に、感謝してもしきれない。
命の恩人…ならぬ。
私の両足の恩人だよ、君は。
それから。
「ごめんね…。迷惑かけちゃって…」
感謝すると当時に、申し訳無さに涙が出そうになる。
しかし。
「迷惑じゃないです」
と、結月君はちょっと不機嫌そうに言った。
うわ。
結月君が不機嫌そうにしてるところ、初めて見た。
絶対怒ってる。「登山に新品の靴を履いてくるなんて馬鹿か?」って絶対思ってる。
うぅ…何一つ言い返せないのが辛い。
「でも…お、怒ってる、よね?」
何をされても絶対怒らない、お地蔵様みたいな懐の深い人だと思ってたけど。
やっぱり、怒るときは怒るんだ。
そりゃそうだ。結月君だって人間なんだから。
そんな結月君を怒らせた私って、一体。
「えぇ、ちょっと…怒ってます」
だよね?
普段怒らない人が怒ると、めちゃくちゃ怖い説。
あれは本当だ。
ちょっとじゃないでしょ。絶対めちゃくちゃ怒ってるでしょ。
「ご、ごめん。履き慣れた靴にしようかとも思ったんだけど、汚したくなくて、つい新しい方にしちゃっ…」
「いや、靴のことじゃなくて。こんなになるまで黙ってたことに怒ってます」
え、そっち…?
「もっと早く言ってくれたら、すぐに引き返すなり、手当てするなり、どうとでも出来たのに…。何で黙ってたんです?」
そ、それは…。
恥ずかしくて…つい…。
「寒がってたのも、もっと早く言ってくれてたら…」
「ご、ごめん…」
「…いえ、済みません。気づかなかった僕も悪いですね」
そんな。
結月君は何も悪くない。
私が勝手に、意地を張って黙ってただけで…。
「つい、いつも一人で来るときのペースで…。星ちゃんさんは初めてのハイキングなんだから、もっと気を遣うべきでした。済みません…」
「謝んないでよ…。私が悪いんだから…」
「いえ、気づかなかった僕も悪いですから…。…でも、今度何かあったらちゃんと言ってくださいね」
「うん…そうする。…ごめんね」
「もう良いですよ」
そう言って、結月君は微笑んだ。
…この人って。
本当…底無しに優しい人なんだな。
私は思わず、結月君をじっと見ながらそう思った。
…そのとき。
安心したのか、痛みがなくなって、思い出したかのように。
私のお腹が、ぐー、と鳴った。
「…」
「…」
…ねぇ。
恥ずかし過ぎて、もういっそ…そこの展望台から飛び降りたい気分だよ。
私はもう、まな板の上の鯉よろしく。
結月君の好きなように、美味しく調理されてしまうしかなかった。
…っていうのは、冗談で。
結月君は私の素足を自分の膝の上に乗せて、跪くようにして地面にしゃがみ込み。
出血している部分に、一つずつ絆創膏を貼ってくれた。
泣きそう。
更に。
「…応急処置ですけど…これ、巻いておいてください」
右足には、先程のハンカチを。
そして左足には、これまたリュックから取り出した手拭いを水で濡らし。
それを、私の腫れた爪先に、ぐるぐると巻いてくれた。
冷たくて気持ち良い。
それに、絆創膏をしてもらったお陰で、痛みがだいぶマシになった。
「ありがとう…」
本当に、感謝してもしきれない。
命の恩人…ならぬ。
私の両足の恩人だよ、君は。
それから。
「ごめんね…。迷惑かけちゃって…」
感謝すると当時に、申し訳無さに涙が出そうになる。
しかし。
「迷惑じゃないです」
と、結月君はちょっと不機嫌そうに言った。
うわ。
結月君が不機嫌そうにしてるところ、初めて見た。
絶対怒ってる。「登山に新品の靴を履いてくるなんて馬鹿か?」って絶対思ってる。
うぅ…何一つ言い返せないのが辛い。
「でも…お、怒ってる、よね?」
何をされても絶対怒らない、お地蔵様みたいな懐の深い人だと思ってたけど。
やっぱり、怒るときは怒るんだ。
そりゃそうだ。結月君だって人間なんだから。
そんな結月君を怒らせた私って、一体。
「えぇ、ちょっと…怒ってます」
だよね?
普段怒らない人が怒ると、めちゃくちゃ怖い説。
あれは本当だ。
ちょっとじゃないでしょ。絶対めちゃくちゃ怒ってるでしょ。
「ご、ごめん。履き慣れた靴にしようかとも思ったんだけど、汚したくなくて、つい新しい方にしちゃっ…」
「いや、靴のことじゃなくて。こんなになるまで黙ってたことに怒ってます」
え、そっち…?
「もっと早く言ってくれたら、すぐに引き返すなり、手当てするなり、どうとでも出来たのに…。何で黙ってたんです?」
そ、それは…。
恥ずかしくて…つい…。
「寒がってたのも、もっと早く言ってくれてたら…」
「ご、ごめん…」
「…いえ、済みません。気づかなかった僕も悪いですね」
そんな。
結月君は何も悪くない。
私が勝手に、意地を張って黙ってただけで…。
「つい、いつも一人で来るときのペースで…。星ちゃんさんは初めてのハイキングなんだから、もっと気を遣うべきでした。済みません…」
「謝んないでよ…。私が悪いんだから…」
「いえ、気づかなかった僕も悪いですから…。…でも、今度何かあったらちゃんと言ってくださいね」
「うん…そうする。…ごめんね」
「もう良いですよ」
そう言って、結月君は微笑んだ。
…この人って。
本当…底無しに優しい人なんだな。
私は思わず、結月君をじっと見ながらそう思った。
…そのとき。
安心したのか、痛みがなくなって、思い出したかのように。
私のお腹が、ぐー、と鳴った。
「…」
「…」
…ねぇ。
恥ずかし過ぎて、もういっそ…そこの展望台から飛び降りたい気分だよ。