星と月と恋の話
「紅葉なんて、小学校の遠足以来じゃないかな?綺麗だね」

「そうですね」

「結月君は、毎年見に来るの?」

「大抵毎年来てますよ。ここに限らず…市内の紅葉スポットは、大体抑えてます」

それは偉い。

「色々見て回ってますけど、何だかんだここから見る景色が一番綺麗なので…」

それで、私をここに誘ってくれたんだね。

この景色を、私にも見せてくれようとして。

「…でも、その結果星ちゃんさんに痛い思いをさせることになって…申し訳ないです」

ぺこり、と頭を下げる結月君。

あぁもう。何やってるの。

「それは君のせいじゃないって…。もう謝らないでよ」

こっちが申し訳なくなってくるじゃん。

元々、悪いのは私なんだから。

「いえ…それだけじゃなくて」

「?」

「…元々…星ちゃんさんは、映画館に行きたかったんですよね?」

…へ?

何で、今ここで映画館の話が出てくるの?

「最初、映画館に誘ってくれたじゃないですか」

「あぁ、うん…。そんなことも言ったね…」

「それなのに、映画館には付き合ってあげられず…。僕の都合で、ここに連れてきてしまって」

…そんな、こと。

気にしてたの?この人。

「星ちゃんさんにとっては、つまらなかったですよね。僕に付き合わせてしまって申し訳ないです」

「…」

…全く、結月君と来たら。

君は優し過ぎて、ついでに真面目過ぎるよ。

もっと肩の力抜いて接してくれて良いんだよ?

誰も怒らないからさ。

「何言ってるの。全然、つまらなくなんてないわよ」

そりゃあ、最初聞いたときは、ちょっとびっくりしたけど。

でも、それは最初だけだった。

ハイキングが始まってからは、それどころじゃなかったしね。

「むしろ、私はこういうところに来ることがなかったから…何を見ても新鮮で面白いよ」

「そ…そうですか?」

「うん」

何より。

「結月君の女子力の高さを、改めて思い知らされて…。本当感心したわ」

「…それは別に、感心しなくて良いです」

「褒めてるのよ?」

「いえ…そうなのかもしれないですけど、でも女子と言われても…男としてはそんなに嬉しくないと言いますか…」

「大丈夫。君は大層良い奥さんになるよ」

「…」

無言で、ずずず、と温かいお茶を飲む結月君。

不満そうな顔してるな?

褒めてるのに。

私なんかより、ずっと良い奥さんになれるよ、君は。

全く羨ましい限りだ。
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