星と月と恋の話
「心の準備は良い?星ちゃん」

「しくじるなよ?頑張れよ〜」

海咲と正樹が、笑いながら私に言った。 

カラオケバトルをした、翌日の放課後。

私は、運命の瞬間を迎えようとしていた。

三珠クンに告白なんて、あまりに嫌過ぎて、今日一日授業が頭に入ってこなかったよ。

「くれぐれも、罰ゲームだってバレないように。今だけは心から三珠クンを好きになれよ?」

「気持ち悪い冗談やめてよ、正樹…」

自分に出来ないことを、他人に強要しないでよね。

罰ゲームだってバレないように、って言うけど。

顔に出ちゃいそう…。

マスクでもつけてくれば良かった。

「俺達、物陰から見てるからさ」

「はいはい、高みの見物ね。最っ低」

「罰ゲームだからな」

と、正樹は勝ち誇ったように言った。

悪趣味。

「まぁ、大丈夫だって。三珠クンだって身の程を弁えて断るよ。『ごめんなさい…』とか言って」

隆成が、下手くそな物真似をしながら言った。

全然似てないし、なんかムカつく。

でも、そう言ってもらわないと困る。

どうするのよ。「ありがとう、俺も好きです」とか言い出したら。

うぅ。怖過ぎる。

考えないようにしよ。

「ほら、愛しの彼氏が帰っちゃうよ。早く呼び止めてきなよ」

真菜が茶化しながら、三珠クンを指差した。

誰が愛しの彼氏よ。

三珠クンはいつも、放課後のチャイムが鳴るなり、鞄を掴んで教室を出る。

友達のいない彼が、教室に残ってお喋りをすることはない。

聞けば、どの部活にも入っていないらしい。

何でかは知らないけど。

部活の一つもやらないから、陰キャだって言われるんだよ。

そして私はこれから、その陰キャに告白しようとしているのだ。

我ながら、正気とは思えない。

でもしょうがない。これは罰ゲームなんだから。

うぅ、海咲があんな悪ふざけをしなければ…。

もし三珠クンと付き合うようなことになったら、一生恨んでやるからね。

私の青春の三ヶ月を返せ!って。

「じゃあ、行ってくるよ」

「頑張れ〜!応援してる」

何が応援よ。余計なお世話だわ。

私は、正樹達に見送られながら。

教室を出ようとしていた三珠クンに、声をかけた。

「三珠クン、ちょっと良い?」
< 11 / 458 >

この作品をシェア

pagetop