星と月と恋の話
私が呼びかけると、彼は一瞬、時が止まったように立ち止まり。

おずおずと、こちらを向いた。

三珠クンの顔を真正面から見てしまって、私は思わず「うぇ」と言いそうになった。

こんな顔してたんだ、この人。

よく見たら、顔は悪くないんだけど。

このもっさりした髪型と、ダサい眼鏡。

本気で私、こんな人にコクろうとしてるの?

最悪だよ。

でも、言わなきゃならない。

「ちょっと良い?話があるんだけど」

「話…?僕に?」

「うん。ちょっと時間もらえる?場所変えよう」

私がそう提案すると、三珠クンはしばし無言で、私の顔をじっと見ていた。

…何見てんのよ。やめてよね。

「…良いですよ、別に」

と、三珠クンはポツリと言った。

ふぅ。とりあえず、呼び止めることには成功。

あとは、いざ勇気を出してコクるだけ。

私と三珠クンは、人気のない校舎裏に向かった。

何でこんなところで、と私は思ったけど。

正樹が面白がって、「告白の定番スポットと言えばここだろ」とか言うから。

何が定番スポットよ。他人事だと思って。

自分だって、あの電波な久露花さんにコクると思ってみなさいよ。

笑い事じゃないでしょ。

絶対、いつか同じ罰ゲームを受けさせてやるんだから。

今頃、後ろの方で私を尾行しながら、聞き耳立ててるんだと思うと。

あんた達、見世物じゃないんだから!と叫びたくなる。

まぁ、今の私は、実際見世物みたいなものなんだろうけど。

…さて、それはともかく。

場所を移動した私達は。

「…話って何ですか?」

三珠クンが、私を促した。

あぁ、はいはい。そうだったね。

ここからが本番だ。

私は心の中で、用意しておいた台詞をもう一度繰り返した。

これを今から、この眼の前の男に、口に出して言うのかと思うと。

正直、気持ち悪くて目眩がしそうだった。

でも、言わなきゃ。

声うわずっちゃいそう。別の意味で緊張して。

「えっと…あのね…」

なかなか切り出しにくくて、私はちょっと言葉を濁した。

三珠クンは無言で、私をじっと見つめている。

…何見てんのよ…。

私がさっさと言わないのが悪いんだけど。

意を決して、私はその言葉を口にした。

「私、三珠クンが好きなんだ。私と付き合ってくれない?」

その言葉が、自分の口から出ているなんて信じられなかった。

それくらい、有り得ないことだった。
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