星と月と恋の話
「分かった。行くよ」

「え、良いんですか?」

「勿論」

私は、笑顔を取り繕って頷いた。

「それは良かったです」

そ、そっか。

超意外な展開で、結月君の家で家デートすることになってしまった。

しかしまぁ…。

「珍しいね、結月君の方からデートに誘ってくれるなんて」

いつも、私の方からデートの誘いを持ちかけてるのに。

これはどういう風の吹き回しだ?

もしかして、私との距離が縮まった、と思ってるのだろうか?

…距離が縮まるのは、良いことなんだろうけど…。

なんか複雑な気持ち…。

と、思ったら。

「あ、はい。うちの母が、最近よく遊んでる友達をうちに連れてきてくれって言うもので…」

あ、ごめん。

そういうことね。そういうオチね?

結月君がって言うか、結月君のお母さんが望んでるのね?

息子の友達に会ってみたいという、お母さんの好奇心なのね?

って言うか…。

「結月君のお母さんは、私を結月君の友達だと思ってるの?」

「あ、はい…。まさか彼女です、とも言えず…。何となく、友達として通してて…」

「そ、そっか…」

彼女どころか、友達どころか、罰ゲームの関係なんだけど。

あれ?でもこれって、ちょっとヤバくない?

私が結月君の家に行って、結月君のお母さんに挨拶したら。

絶対お母さん、「これは彼女だな」って思うよね?

私はもしかして、結月君の彼女として、結月君のお母さんに紹介されてしまうのでは?

それは困る。凄く困る。

何度も言うように、私は結月君と本気で付き合ってる訳ではないのだ。

あと一ヶ月と少ししたら、さよならする関係なのに。

お母さんに紹介なんかされちゃったら、別れるとき、気まずいことにならない?

その点、結月君がお家で私のことを「彼女」ではなく。

ただの友達として通してくれていることは、非常に有り難い。

あくまで、あくまで女友達として紹介されたい。

いや、無理か?普通に考えて無理か?

だって、息子が女の子を家に連れてきて、いくら「友達です」と主張したって。

それは通らないのでは?絶対、疚しいことを想像するよね?

彼女でなくても、恋人として意識している仲、だとは思われるよね。多分。

それが自然な流れだと思う。

嫌だ。それは嫌だ。

私はあくまで、結月君の友達として、結月君のお母さんに紹介されたい。

って言うかそもそも、結月君のお母さんに会いたくない。

家デートするのは良いけど、親を巻き込むのは遠慮したい。

しかし、「良いよ」と言ってしまった手前、今更前言撤回は出来ない。

かくなる上は。

「あ、あの、結月君」

「はい、何ですか?」

「そ、その…。は、恥ずかしいからさ。恥ずかしいから。私のことは、彼女じゃなくて…あくまで友達ってことで、お母さんに紹介してもらえる…?」

私は、苦し紛れに結月君に頼んだ。

間違っても「僕の彼女です」とカミングアウトされないように。

少しでも、予防線を張っておきたい。

すると。

結月君は、しばし驚いたように私を見て。

「…分かりました。そうします」

と、頷いて言った。

「ご、ごめんね。ま、まだ彼女として紹介されるのは、は、恥ずかしいから…」

なんて、言ってる私の方が恥ずかしいわ。

「大丈夫です、僕もさすがに、それはまだ恥ずかしいので…。あくまで友達ってことにします」

と、結月君は苦笑いしながら言った。

ホッ。

それなら、少しは安心か…。
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