星と月と恋の話
緊張している暇もなく、結月君のお母さんが声をかけてきた。

「あなたが結月のお友達なのね?」

「は、はい…」

お友達。

彼女なのね、と言われなかった。

私はあくまで、結月君のお友達ポジションとして認識されているらしい。

結月君がそう説明したのだろうか?

…何にせよ。

結月君のお母さんは、嬉しそうに微笑んでいた。

「今日は来てくれてありがとうね。もっと、ちゃんともてなしてあげたいのに…こんな格好でごめんなさい」

「い、いえ。とんでもないです…」

「それにしても、可愛らしいお嬢さんだこと…。あの子と仲良くしてくれてありがとう」

「そ、そんな。と、とんでもないです…」

「あの子が友達を連れてくるなんて、小学校以来なのよ。来てくれて嬉しいわ」

「…とんでもないです…」

…さっきから、私。

とんでもないです、しか言ってない。

恐縮しっぱなし。

だって、しょうがないじゃない。

どんな鬼ババかと思ってたら、予想以上に優しそうなお上品なお母さんで。

どういう反応をすれば良いのか、分かってない。

物凄く高貴な身分の人に謁見してる気分。

どんな態度で臨めば良いのか分からない。

あ、そうだ。

相手が高貴な身分の人なら、貢ぎ物をすれば良いのでは?

私はそのとき、自分が手土産を持ってきていたことを思い出した。

「あ、あのこれ…。つまらないものなんですけど…」

私はアイシングクッキーの入った紙袋を、結月君のお母さんに差し出した。

さっき、結月君がいるときに渡せば良かったよ。

「まぁ、気を遣わなくて良かったのに」

「い、いえそんな。お家に招いてもらって…。それに、結月君には何度もお世話になったので…」

その…お礼の意味も込めて。

あ、でも。

このお母さん、アイシングクッキー…食べるのかな?

こんなお母さんだって分かってたら、もっと…和菓子とか選んできたんだろうが。

時既に遅し。

「その…クッキーなんですけど」

「ありがとう。有り難く頂くわ」

そう言って、お母さんは優しい笑みを浮かべた。

…良い人だなー…。

成程、結月君があんな風に育ったのは、このお母さんの影響なのか…。

私は、思わずまじまじと結月君のお母さんを見つめてしまった。

うちのお母さんとも、真菜や海咲のお母さんとも全然タイプが違う…。

と、思っていると。

「…どうかした?」

はっ。

思わず、見とれてしまっていた。

「い、いえ…。その…。…あ、そうだ。お家…とっても綺麗ですね」

私はしどろもどろになりながら、何とか言い訳を口にした。

まさか、あなたの顔に見とれてました、とも言えず。

…しかし、言ってから後悔した。

家が綺麗ですね、ってどういう褒め言葉よ。

我ながら意味が分からなかったけど。

でも、本音だった。
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