星と月と恋の話
「そ、その…。広いのに、お掃除が行き届いてますし。お庭も凄く綺麗で…」

「あぁ…」

そういうことか、とばかりにお母さんは頷いた。

そ、そう。そういうことです。

「あれね、全部結月がやってくれてるのよ」

と、お母さんは微笑みながら言った。

…え?

「結月君、が…?」

「そう。掃除だけじゃなくて…うちの家事全般は、ほぼ全てあの子がやってくれてるの」

…そ。

…そうなの?

「私は、ご覧の通り無様なものだから…。動けるときは家事もするんだけど。あの子、私に体力を消耗させることを嫌がってね。結局何でもかんでもやってもらってるわ」

「…」

私は、感心して目を見張った。

…料理、やってるのは知ってたけど。

お母さんのお仕事、手伝ってるっていう話も聞いてたけど。

それだけじゃなかった。

この綺麗なお家の掃除も、結月君がやってたんだ。

家事全般ってことは…お洗濯とかも含まれるよね?

そんな…じゃあ結月君、もう専業主婦じゃない。

学校に行きながら、家事全部引き受けてたんだ…。

「す…凄い、ですね…」

私は、思わずそう言ってしまっていた。

私にはとても無理だ。

学校に行きながら、家のことも全部こなすなんて。

「そうね。あの子には感謝しかないわ」

と、お母さんはしみじみと言った。

「あの子には父親がいないのよ。幼い頃から…。早くに事故で亡くなったから」

えっ。

お父さん…いないの?

そういえば、お母さんの話は何度か聞いたことがあったけど。

結月君のお父さんの話は、一度も聞いたことがない。

亡くなってたからなんだ…。

「じゃあ…その、結月君とお母さんの二人暮らしなんですか…?」

「そうよ。ずっとそう…。私がこんなに腑抜けなせいか、結月は幼い頃からしっかりしててね」

本当に…しっかりしてるよね。

「小さいときから、家事も私の仕事も手伝ってくれて…。その合間を縫って、勉強もして」

「…」

「中学校に入っても、部活もやらないで真っ直ぐ帰ってきて家のことをしてくれるわ。感謝してるけど…凄く申し訳ない。子供らしくのびのび遊ばせてあげたいのに…。それが出来ないから…」

…そっか。

結月君があんなに料理上手なのも。お母さんのお仕事を手伝ってるのも。

全部、お母さんを助ける為だったんだ…。

母一人、子一人の母子家庭で、身体が思うように動かせないお母さんの為に。

結月君は、しっかりした性格なんじゃない。

結月君がしっかりしてなきゃならないから、自然とそうなっただけなんだ…。
< 153 / 458 >

この作品をシェア

pagetop