星と月と恋の話
「私には勿体ないくらい、良い子に育ってくれたわ、結月は」

と、お母さんは嬉しそうな、でも申し訳無さそうにも見える顔で言った。

…本当に。私もそう思う。

結月君って…本当に、良い人だ。

「…優しい、ですもんね。彼…とっても」

私は、口をついてそう言っていた。

困ってる人は、絶対放っておかないんだもん。

素朴で、気取らなくて…でも、それを引け目に感じることはなくて。

自分に出来ることなら、と何でもしてくれる。

器用だし。物持ちも良いしなぁ。

「そうね。凄く…優しい子に育ってくれたわ」

お母さんも誇らしそうだった。

あの結月君の優しさは、このお母さんのお陰なんだね。

このお母さんに育てられたから、結月君はあんなに優しい人になったんだ。

それがよく分かった。

すると、そのとき。

「お茶、入りましたよ」

キッチンに行っていた結月君が、お盆を持って戻ってきた。

あ、お帰り…。

結月君のお母さんと二人で、結月君をじっと見つめる。

今、君の話してたんだよ。

「…何見てるんですか?二人で…」

「ふふ。…何でもないのよ」

「そ、そう。何でもないのよ」

お母さんと一緒に否定する。

ずっと結月君の話してたんだもの。聞かれたら恥ずかしい。

「…?そうですか…。はい、星ちゃんさん、これ…」

「あ、ありがとう」

熱いお茶の入った湯呑を、結月君は差し出してきた。

わー、美味しそう。

茶柱立ってないかなと思ったけど、残念ながら立ってなかった。

「母さんもどうぞ」

「ありがとう」

当然、お母さんにもお茶を差し出す結月君。

やっぱり優しい。

「そうだ、星野さん…だったかしら」

結月君のお母さんが、私の名前を呼んだ。

そうだ。私、全然挨拶してなかった。

つい。緊張してて。

「あ、は、はい。星野唯華と申します」

「唯華さん。可愛らしいお嬢さんは、名前も可愛らしいのね」

と、お母さんはにこにこ微笑んだ。

そんな…。

褒めるのが上手なお母様。

「今日は唯華さんがいらっしゃるって聞いて…。昨日、あんみつを作ったの」

あ、あんみつ?

「結月。お昼の後に、唯華さんに出してあげてね」

「はいはい。ちゃんと覚えてるよ」

「それから、これ…。さっき、唯華さんがくれたのよ。クッキーですって」

結月君のお母さんは、私があげたアイシングクッキーの紙袋を、結月君に手渡した。

「あ、そうだったんですか…。それはどうもご丁寧に、ありがとうございます」

「う、ううん…。大したものじゃないから…」

結月君とお母さんの、このもてなしと。

今まで結月君に助けられたことを思えば。

アイシングクッキー一つじゃ、全然割に合わないよ。

「…身体、大丈夫?」

結月君は、そっとお母さんに尋ねた。

「平気よ、大丈夫」

「そう…。具合悪くなる前に、ちゃんと休んでよ」

「分かってるわ」

…。

…本当に、結月君。

お母さんのこと、大事に思ってるんだね。

真菜や海咲は、これを見てマザコンと言うのかもしれないけど。

私はそうは思わなかった。

結月君は長いこと母子家庭で、身体の弱いお母さんと、二人三脚で暮らしてきた。

そんな二人が、お互いにお互いを必要とするのは、当然のことだ。

結月君は決してマザコンなんじゃない。

ただ、優しいだけだ。

お母さんに対しても、他の人に対しても…。
< 154 / 458 >

この作品をシェア

pagetop