星と月と恋の話
居間は、これまた畳張りの広い和室だった。

家具は少なく、どれも古びてはいるけど。

やっぱり掃除は行き届いていて、埃一つ見つからなかった。

凄いね、本当に綺麗…。ハウスキーパーが入ってるみたい。

これ全部、結月君がやってるんだよね?掃除…。

「お茶、淹れ直しますね」

「あ、ううん、大丈夫…」

私は遠慮したけど、結月君は湯呑みを下げ、キッチンに行ってお茶を淹れ直してきてくれた。

「ありがとう…」

「いいえ。もてなしてるんですから、当然です」

そ、そっか…。

…。

…えぇと。

聞いちゃって、良いのかな…?

でも、やっぱり失礼だよね…と思って、黙っていると。

「聞かないんですか?僕の…母のこと」

「…」

結月君の方から、そう切り出した。

…ごめん、やっぱり気になるから聞くよ。

「えっと…。お母さん…身体、弱いんだね…?」

って、やっぱり失礼だよね。

そんなこと聞いたら、誰でも気を悪くするに決まってる…。

でも、結月君は聞かれることを覚悟していたのか。

「えぇ。昔からです…。病気がちで、体力もあまりないんです」

と、結月君は少しも顔色を変えずに答えた。

…そうなんだ…。

「…た、大変だね…。家事とか…いっぱい手伝ってくれてるって、お母さん言ってたよ」

「そんな話してたんですか?」

うん…。そんな話してた。

自分のいないところで、自分の話されるのは嫌だよね。

「まぁ、幼い頃からそれが普通だったので、僕は特に大変だとも思いませんけどね」

「…」

…そっか。

映画館にもカラオケにも行ったことがない、って言ってたけど。

あのときは驚いて、どれだけ厳しい家庭なんだ、と思ったものだけど…。

あれは別に、家庭が厳しい訳じゃなかったんだ。

金銭的な余裕がないから、って訳でもない。

いや、それも少しはあるのかもしれないけど。

でも一番の理由は、そんなことをして遊んでる暇がないから。

それが理由なんだ。

家のことをほぼ全部やって、病気がちなお母さんの面倒を見て、お仕事も手伝って。

その傍ら、学費免除枠を維持する為に勉強も頑張って、良い成績を取って…。

…そんなことしてたら、遊んでる暇なんてほとんどないのは当然のことだ。

私が、家のことを家族に丸投げして、勉強もせずに遊び呆けていることを思ったら…。

結月君は、さながら二宮金次郎さんだ。

現代にもいるんだね。そんな立派な学生…。

…って、私が不真面目過ぎるのか。

「偉いなぁ、結月君は…」

まるで、同い年とは思えない。

立派だ。

「そんなことないですよ」

「謙遜しなくて良いのよ…」

あなたが謙遜しちゃったら、私がとんでもなく自堕落な生活送ってるみたいになるじゃない。

「そりゃ、自慢の息子だわよ…。こんな親孝行な息子を持ったら、お母さんは幸せでしょうね」

「そうですかね…?そんなものですか?」

「そうよ」

さっき、結月君のことを語るお母さんの顔を思い出してみれば良い。

なんと誇らしそうだったことか。

「君は良い人だよ」

「そう、ですか…。ありがとうございます…」

だからもうちょっと、胸を張って良いのよ。
< 156 / 458 >

この作品をシェア

pagetop