星と月と恋の話
結月君に、一旦居間から出てもらって。

大きな姿見の前で、いざ試着。

見た目には分からないけど、着てみたら裏布がきちんと当ててあって、結構保温性もある。

これからの寒い季節にもぴったり。

手間かかっただろうなぁ。

着心地最高。

おまけに、デザインも最高。

自分で言うのもなんだけど、かなり似合ってる気がする。

着る人に似合うように、考えてデザインしてくれたのかなぁ?

正に仕立て屋。オーダーメイドの醍醐味。

これ、写真撮ってTwittersにアップして良い?

今ばかりは、「良いでしょこれ、羨ましいでしょ〜!」って、最大限にマウント取りたい。

フォロワー数減るわね。でもやりたい。

それくらい素敵。

「あの…着れました?」

襖の向こうから、結月君の声がした。

あ、そうだ結月君待たせてたんだった。

ちょっと自分の姿に見とれてたわ。

なんて自惚れ。

「うん、着たよ」

「じゃ、開けますね…」

すすす、と襖を開ける結月君。

いらっしゃい。って結月君の家なんだけど。

「どうどう?似合う?」

「あ、はい、似合いますね…。良かった。どんな模様にするか、色々考えたんですけど…。やっぱりそれが一番似合いますね」

やっぱり考えてくれてたんだ。

結月君の見立ては完璧だなぁ。

さすが仕立て屋。

シェフをやりながら、仕立て屋もやるなんて。あなたなんて多才なの。

ついでに掃除も得意っぽいから、ハウスキーパーも兼任。

結月君に隙なし。

「ちょっと、後ろ失礼しますね…」

「うん?」

結月君は私の後ろに回って、襟を少し摘まみ、それから跪いて裾を少し引っ張り。

プロの目で採寸していらっしゃった。

かっこい〜…。プロだ、プロ。

「着心地はどうですか?」

「ん?最高だよ」

「そ、そうですか…。でもちょっと、袖丈が微妙に長い気がするので…そこだけ直しますね」

え、そう?

自分で、鏡で見た分には全然気にならないけど。

プロの目から見ると、気になるのかもしれない。

普段から市販品で慣れてるからな…。

多少裾が長かろうが、袖が短かろうが、「可愛いからいっか」みたいなノリで、大して気にしてこなかったけど。

仕立て屋さんの目から見ると、そういうところを放っておけないのね。

プロの目は厳しい。

「このくらい良いよ?全然気にならないし」

「そうですか?でも、僕は気になるんですよね…」

さすがプロ。

「まぁこのくらいいっか」で妥協するということがない。

私が大雑把過ぎるのかもしれない。

既製品だって、袖丈とか裾丈とか、気にする人は気にするもんね。

私はデザインで選んでるから、着心地とかは二の次にしてしまってるけど。

そんなだから、足に合わないスニーカーを買って、靴ずれを起こして苦しむことになるのよ。

学習をしなさい、学習を。

「すぐに直しますね。ちょっと脱いでもらえますか?」

「うん、分かった」

ここは大人しく、プロの仕立て屋さんに従っておくとしよう。
< 159 / 458 >

この作品をシェア

pagetop