星と月と恋の話
「でもさ、でもさ結月君」

「何ですか?」

「結月君は、将来お母さんの跡を継ぐつもりなんでしょ?」

「今のところは…一応、そのつもりですね」

そうよね。それだけ出来たらね。

でも、そういう「親の跡を継ぐ」系の人に、聞いてみたいことがあったんだけど。

「嫌じゃないの?」

「え?」

「お母さんの跡を継いで、仕事を選ぶのって…嫌じゃない?」 

職業選択の自由を奪われる、と言うか…。

本当はこんなことやりたくないのに、家業だから仕方なく…みたいな。

私だったら、自分の道は自分で決めたいと思うだろうから。

結月君は嫌じゃないんだろうか?

「嫌…嫌だと思ったことはないですね」

ないんだ。

「幼い頃から、母が仕事する様子をずっと見ながら育ったから、それが普通って言うか…。母がやってることが何だか格好良いから、自分もやってみたくなったと言うか…。そりゃまぁ、楽しいことばっかりじゃないですけど…」

だよね。

むしろ、大変なことの方が多いんじゃないかな。

お母さんの一番近くで見ているからこそ、酸いも甘いも知ってるって言うか…。

それでもなお、お母さんの跡を継ぎたいと思うのね。

「将来お前は跡継ぎになれ、って強制されたことは一度もないんですよ。最初に母を手伝おうと思ったのも、単に母が大変そうだったから、僕も手伝ってあげたいっていう幼心があっただけで…」

「それだけでも、充分偉いと思うけど…」

「あとは、まぁ単に…手伝ったら母に喜んでもらえたから、もっと喜んで欲しいと思って…。…って言うと、なんかマザコンっぽく聞こえるかもしれませんけど…」

「うん…。大丈夫、君は既に充分マザコンだよ」
 
「そ、そうですか…。ちょっとショックなんですが…」

「そう」

でも、事実だから。

胸を張って良い。君はマザコンだ。

ただのマザコンじゃなくて、愛すべきマザコンだよ。

めちゃくちゃ親孝行だしね。

「…そんなこんなで、出来ました」

お喋りしている間に、ワンピースのお直し完了。

本当に早かったわね。

「ありがとう。…どうお礼したら良いかしら」

こんな立派なもの、作ってもらったんだもの。

何かお礼しなきゃ失礼だわ。

「良いですよ、お礼なんて…。別に見返りが欲しくて作った訳じゃないですし…」

「でも、材料費とか…」

「材料は家にあるものを使ってますし…もとは捨てる予定だった古着ですから、大した金額じゃありません」

「じゃあ、手間賃」

「半人前が手間賃なんか請求したら、母に笑われます」

ぐぬぬ。

何としても断るのね。

もっとがめつく生きて良いのよ。オーダーメイド代払え、とか。

「それに、お礼ならさっきもらいましたよ。お土産にクッキーもらいましたから」

「あれは、前のハイキングのときのお礼よ」

それはそれ、これはこれでしょ。

分かった、分かったわよ。

「じゃ、また今度、別の形でお礼するわね」

「…忘れて良いですよ?」

「忘れられる訳ないでしょ?こんな素敵なワンピース作ってもらってるのに」

同じものを、よそで買おうと思ったらいくらかかると思ってるの。

そもそもオーダーメイドだから、よそでは売ってない。

もらいっぱなしで、何かお礼しないと、こっちの気が済まないわ。

「あ、そうだ…。そろそろお昼にしましょうか。今日星ちゃんさんが遊びに来ると思って、朝から作って待ってたんですよ」

ほらぁ。そういうこともするから。

余計、何かお礼しないと気が済まないわよ。
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