星と月と恋の話
合流してから、私達二人は、イルミネーションを見て回った。

私は歩きながらも、カチンコチンに緊張して、足取りも重かった。
 
頭の中では、別れるときの言葉を必死に考えていた。

だから。

「…綺麗ですね」

と、結月君が話しかけてきても、すぐには返事が出来なかった。

「…えっ…?」

「?イルミネーションですよ」

「あ、う、うん…。…綺麗だね…」

私は、目を泳がせながらそう答えた。

結月君は怪訝そうな顔で、こちらを見ていた。

いけない。ちゃんと相手しなきゃ。

普段、あれほど寡黙な結月君の方から話しかけてくるくらいだ。

明らかに私は、様子がおかしいように見えていることだろう。

せめて最後に、綺麗なイルミネーションを見て。

結月君との関係を、良い思い出で締め括りたいと思っていたのに。

私が上の空じゃあ、良い思い出にも何にもならない。

「え、えぇと…。ゆ、結月君はこのイルミネーション、見に来たことあるの?ここ、毎年やってるでしょ?」

何か話題を見つけようと、私は自分から話しかけた。

結月君って、何かに付けて初めてなことが多いから。

イルミネーションを見に来るのも、初めてかと思ったのだけど。

「何度か…記憶にありますね。まだ小さいときですけど」

と、結月君は答えた。

あるんだ。珍しい返事。

「観覧無料ですしね。僕が見に行きたがって、母も体調が良いときは、連れてきてもらったんです」

「そ、そっか…」

「さすがに、一人では来たことないんですけどね。あまりにもほら…カップル率が高くて、居心地が悪いって言うか」

「そ、そうね…」

「ほら、あんなことやってるんですよ?」

結月君は、イルミネーションスポットの一角を指差した。

そこには、ハート型のアーチの前に、二人がけのベンチが置いてあり。

撮影スポットとなっていて、そこで自撮りしているカップルが、列を作っていた。

いかにも、仲良しカップルですって感じ…。

去年までの私なら、「くそーリア充め、爆発しろ…」くらいに思っていたのだろうけど。

今は、あんな光景を見るだけでも罪悪感を掻き立てられる。

「さすがに敷居が高いですよね、ああいうのは…」

「う、うん…」

「…でも、今年は僕も…僕達も、あの人達みたいに見られてるんでしょうかね?」

…ズキン。

そんなこと言わないでよ…心が痛む。

騙しているのは私なんだから、私が心を痛めるのは筋違いだけど…。

「そ、そうね…。そうかもしれないわね…」

「…」

結月君はしばし無言で、じっとこちらを見つめた。

な、何…?

もしかして、挙動不審になってるのバレた?
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