星と月と恋の話
すると、案の定。

「…どうかしました?」

「えっ…」

ドキッとした。

「何か、さっきから上の空みたいですから…。…寒いですか?」

さ、寒い訳じゃなくて…。

どうしよう。何か上手い言い訳を考えなきゃ。

そうだな、えぇと、えぇと…。

あ、そうだ。

「そ、そうじゃなくて。なんか…そう、お腹空いたなぁと思って」

私は目を泳がせながら、必死に言い訳を並べ立てた。

「ほら、さっきから、屋台の美味しそうな匂いがしてるでしょ?」

「あぁ…はい」

「つい、食欲かき立てられちゃって。ちょっと、買ってきても良い?」

「良いですよ、どうぞ」

本当は、全然お腹なんて空いてない。

緊張し過ぎて、むしろ何も食べたくない。

それでも、私は屋台の列に並んで、何とか息をついた。

いけない。もっとちゃんと、いつも通り振る舞わなきゃ…。

絶対おかしいと思われてるよね…?

結月君の顔を正視出来ない。

結月君から逃げるように、私は立て続けに屋台に並び。

大して欲しくもない、焼きそばや串焼きやフライドポテトなどを買った。

少しでも時間稼ぎをしようと、わざと長い行列の出来た屋台を選んで並んだ。

それでも、20分も時間稼ぎは出来ず。

目についた屋台で、食べ物を購入した私は。

再び、結月君と合流せざるを得なかった。

「お、お待たせ…」

「お帰りなさい。…って、随分色々買い込んだんですね」

ぎくっ。

本当にね。食欲もない癖に。

物凄く食い意地を張った人みたいになってる。

「お、お腹空いてたから、つい…」

白々しくも、私はそう言い訳した。

嘘をつけ。お腹なんて空いてないのに。

「そ、それにほら、結月君と二人で食べようと思ったから」

「…?僕と…?」

「そう、一緒に食べよ」

私がそう誘うと、結月君は少し困惑したような顔になった。

「でも…僕、大してお金持ってきてないので…」

「そんなこと気にしなくて良いのよ。私が奢るから」

これも、その…慰謝料の代わりよ。

「いつもは、デートの度に結月君がお勉強作ってきてくれたでしょ?だから、そのお礼」

「でも…悪いですよ」

「悪くないわよ。この間はワンピースだって作ってくれたんだし。さ、ほら遠慮しないで食べて」

私は強引に、結月君に食べ物を押し付けた。

「あ、有り難いんですけど、出掛けに軽く食べてきたので、あまりお腹空いてないんです」

結月君もか。

私もお腹空いてないんだ。君とは別の理由だけど。

「食べられるだけで良いよ。さぁさぁ遠慮せず食べて。君はもうちょっと太らなきゃ」

「ふ…太りたくはないですが…。…じゃあ、お言葉に甘えて、少し頂きますね」

少しじゃなくて、ガッツリ食べて良いのよ。

私は食欲ないし、それに…。

食べている間は、無言でも不自然じゃないから…。
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