星と月と恋の話
屋台で買った食べ物を摘まみながら、私達はイルミネーションを見て歩いた。

食べながらゆっくり歩いても、所詮は無料で見られるイルミネーションスポット。

あっという間に、一通り見終わってしまった。

「ここで終わりですね」

「…そうね…」

「何だか、あっという間でしたね」

そうなんだ。羨ましい。

私にとっては、無限のように長い時間だったよ。

「引き返しながら、帰りましょうか」

「うん…そうね」

私は会話を避けたくて、食べたくもないフライドポテトを口の中に押し込んだ。

出来るだけ沈黙を守りつつ、来た道を引き返す。

この後、別れ際に言わなければならないことを頭の中で反芻する。

人気ないところに行って、私はこの三ヶ月間のネタばらしをして…。

お詫びのケーキを渡して、ちゃんと別れ話を…。

…そんな瞬間は、永遠に来なければ良いのに。

チカチカと光る、綺麗なイルミネーションに囲まれて。

私は、ふとそう思った。

こんなに綺麗なのに、ちっとも目に入らない。

我ながら勿体ないことをしているものだ。

年に一度のイルミネーションを、折角見に来ているのに。

こんな風にして、時間を浪費するなんて…。

…と、そんなことを考えて歩いていたせいか。

私は、酷くボーッとしていた。

そのせいだろう。

私はすれ違いざま、誰かにドンッ、とぶつかった。

その衝撃で、我に返った。

私今、誰かにぶつかったよね?

「あ、す、済みません」

慌てて謝罪しながら振り返り。

そして、ゲッ、と思った。

私がぶつかったのは、いかにも柄の悪そうな、金髪で趣味の悪いネックレスをつけた、大学生くらいの男性だった。

「いってーなおい…。何処見て歩いてんだ?」

案の定、その不良大学生(推定)は、ジロリとこちらを睨んだ。

うぅ、変なのに絡まれちゃった。

「ほ、本当に済みません」

何とか穏便に済ませたくて、私は素直に頭を下げた。

しかし。

「済みませんで済んだら、警察は要らないんだよ」

不良大学生は、こちらを凄むように言った。

そのとき、その大学生から、お酒の匂いを感じた。

この人、酔っ払ってるんだ。

酔っ払ってる人にぶつかってトラブルなんて、最悪だ。

いくら私がぼーっとしていたとはいえ、向こうも注意不足だったんだから、お互いイーブンだろうに。

向こうは完全に、私が一方的にぶつかってきたものと思っているようだ。

「慰謝料払ってもらわねぇとなぁ」

挙げ句、そんな難癖をつけてくる始末。

い、慰謝料って…。

「おい、聞いてんのか」

「そ、そんな…本当に、申し訳なかったと…」

必死に謝ろうとしたが、向こうは聞く耳を持たない。

「謝罪するなら、誠意を見せやがれ、誠意を。きちんと責任取ってもらわないと、」

「…そのくらいにしてあげてくれませんか」

目をひん剥いて凄んでくる、不良大学生(推定)の前に。

結月君が、するりと滑り込むようにして間に入った。

え…?
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