星と月と恋の話
…帰り道。

言わなきゃ、言わなきゃ、言わなきゃと…ずっと思い続けながら。

しかし、切り出せないままに、帰り道を歩いていた。

…あと少しで、私の家についてしまう。

何も言わずに、結月君はここまで送ってくれたんだと気づいて、また罪悪感に駆られた。

この人を…こんな優しい人を、私はこれから傷つけなきゃならないのだ。

下らない罰ゲームを行った、愚かな自分の代償を、これから払うのだ。

「…あの、結月君…」

「はい、何ですか?」

「じ、実は…話したいことがあるんだけど…」

またしても、声が上ずっているのを感じた。

でも、言わなきゃ。言ってしまわなきゃ。

「話したいこと?何ですか?」

結月君は、きょとんと首を傾げた。

え、えっと…。その…。

何度も頭の中で、この瞬間をシミュレーションしたはずなのに。

いざその瞬間を迎えると、台詞が全部飛んでしまっていた。

何て言おうとしてたんだっけ、私は。

言葉が何も思いつかなくても、言わなきゃならない。

「あの…。わ、私と…今日、限りで…わ、別れて…くれないかな…」

…言った。

消え入りそうな声で、ちゃんと結月君に届いているか心配になったけど。

でも、私は言った。

とうとう言ってしまった…。

「…別れる…?どうして?」

消え入りそうな声だったが、ちゃんと聞こえていたようだ。

結月君は、困惑の表情を浮かべていた。

当たり前だよね。

「その…えっと…」

「…訳を話してもらえますか?」

結月君は、あくまで冷静に尋ねた。

いっそ、狼狽してくれた方が楽だったよ。

私が一人だけおろおろしてるみたいじゃない。

「そ、その…。今日で、付き合ってて三ヶ月目じゃん?でね…その、三ヶ月前にね、友達の…真菜や正樹達とカラオケに行って…」

「…」

「勝負したんだよ。カラオケの点数で、一番低かった人が…その…結月君に告白して、三ヶ月付き合うって…」

…あぁ、言っちゃった。

ついに言ってしまった。

これで、結月君も分かったことだろう。

私達が過ごした三ヶ月は、仮初めの日々でしかなかったのだと。
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