星と月と恋の話
「素直に言えば良い。僕も素直に言いますよ。あなたと違って、僕は嘘つきじゃないから」

結月君は、私の胸ぐらを掴んだ。

身体がビクッと震えたけど、やっぱり動けなかった。

「あなたのことなんて、僕はずっと大嫌いだった。他人を傷つけて平気な人間なんか、好きになるはずがない」

ぽろぽろと、涙の雫が地面に落ちた。

自分でも酷い顔をしていると思う。

だけど、どうしても涙が止められなかった。

ズルいよね。卑怯だよね。

だから最低だって言われるんだ。

「やっとお別れですか、せいせいしますよ。あなたもそうでしょう?ずっとこの瞬間を待ち望みながら、三ヶ月過ごしてきたんでしょう?」

私は無言で、首を横に振った。

そんなこと思ってない。

断じて、そんなことは思ってなかった。

だけど、結月君には通じない。

「良かったじゃないですか。逆ギレして首を絞められなくて。こっちだってお前なんか大嫌いだ、って言われて、円満に別れられるんだから。嬉しいでしょう?」

何度も、何度も首を振った。

嬉しくなんかない。
 
「明日からはまた、露骨に僕を馬鹿にして良いんですよ。これまで通り。お互い、もう白々しい演技なんかしなくて良い。散々僕を蔑めば良い。僕も、あなたをずっと軽蔑し続けますから」

「…」

「…穢らわしい、最低のクズ女」

結月君はそう言って、歪んだ笑顔で私を突き飛ばした。

私は、ドサッと地面に手をついた。

「お互いスッキリして、明日は最高のクリスマスを迎えられそうですね。…どうせこの後、明日にでも、お友達と祝杯でもあげるんでしょう?」

…見透かされてる。

その通りだ。結月君の言う通りだ。

「『円満に』別れられたと、お友達に伝えらますね。…ところで、今度は誰が罰ゲームをやるんですか?今度は誰を傷つけるんですか?」

「…しないよ…そんなこと…」

もうあんなこと、二度とやらない。

絶対にやらない。

…でも。

「またやりますよ、あなたみたいな人種は。あなた方が他人を傷つけるのは、いつだって無自覚なんだから。無自覚に傷つけて、無意識に忘れる。…傷つけられた方は、決して忘れないのに」

「…」

「…ねぇ、星野さん。馬鹿なあなたでも」

彼は、私をそう呼んだ。

それは、れっきとした決別の証だった。
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