星と月と恋の話
…大丈夫ですよ、と結月君は言った。

「あなたは馬鹿だから、どうせすぐに忘れられる。僕もこのことは誰にも言いません。…あなたと違って、言い触らす趣味はないので」

そう言ったきり。

気がつくと、結月君の姿は消えていた。

ぐちゃぐちゃになったケーキの箱と、これまた顔をぐちゃぐちゃにして私だけが、取り残されていた。

…私は、何も分かってなかった。

自分が…どれほど馬鹿だったことか。

どれほど愚かで、浅慮だったことか。

そのせいで、どれほど結月君を傷つけてしまったことか。

何も、何一つ、分かっていなかったのだ。

結月君は、全部分かっていたのに。

全部分かっていて…三ヶ月の間ずっと、私の為に演技をしていたんだ。

私達の下らない罰ゲームに…付き合ってくれていたんだ。

なんて滑稽な話だろう。

自分がどれほど愚かだったか、今更気づいても、もう遅い…。

ぐちゃぐちゃになったケーキの紙袋を持って、私は啜り泣きながら家まで歩いて帰った。

正直、歩いている間の記憶がない。

気がついたら、家に帰ってきていた。

すれ違った人は、一体何があったんだろうと思っただろうな。

クリスマスイブの夜に、めそめそ泣きながら夜道を歩くなんて。

みっともないことこの上ない。

でも、そんなことが何だって言うんだろう。

私が結月君にしたことに比べたら。

私に泣く資格なんてない。

傷つけられたのも、裏切られたのも結月君だ。私じゃない。

私は彼を傷つけた。裏切った加害者なんだから。

私が被害者面をしてはいけない。

それなのに、私は泣くのをやめられなかった。

結月君なら、笑って許してくれるとたかを括っていたから。

愚かにもそう思い込んでいたから。

そうよね。何で私、結月君のこと軽んじてたんだろう。

あんなに賢い人が、気づかない訳ないじゃない。

そんなに馬鹿な訳ないじゃない。私じゃないんだから。

彼はずっと気づいていたんだ。気づいていながら、気づかない振りをしていた。

ずっと演技していたのは、結月君の方だったんだ…。

騙された。裏切られた。

愚かなを私は、心の何処かでそう思ってしまっていた。

馬鹿だよね、本当に。

先に騙したのも、裏切ったのも、私なのに。

いつの間にか、結月君の信頼を得ていると思い込んで。

なんて愚かで、無知で、幼稚だったことか。

私に泣く資格なんてないんだから、何とかして泣き止もうとするのに。

結局私は、朝まで泣くのをやめられなかった。
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