星と月と恋の話
――――――…気分が悪かった。

星ちゃんさん…いや、もう演技をやめたんだから、星野さんか。

彼女に真実を告げてから、思いっきり、柄にもなく思いの丈をぶつけてから。

僕は彼女を置き去りにして、一人で歩いて帰った。

ずっと言いたかったことを言ってやった。

僕は最初から気づいていた。

三ヶ月前、彼女が突然僕に告白してきたときから。

「あぁ、そんな罰ゲームを受けてるんだろうな」と思った。

驚くほど冷静だったのを覚えている。

僕が昨日今日、クラスのはみ出し者になったとでも思っているのだろうか。

中等部にいた頃から、ずっと地味だの、つまらない奴だの、根暗だの、陰キャだの、陰口を叩かれてきた。

陰口を叩く奴は、その声が本人に届いていないと思い込んでいるのだろうが。

全部聞こえている。

その場に本人がいなくても、聞こえている。

言葉だけじゃない。その態度、視線、自分に接するときの、その気まずい空気で。

あぁ、この人は自分のことを蔑んでるんだ、と分かる。

星野さんもそうだ。

中学二年生のあのときから、笑顔を取り繕っていても、ずっと僕のことを馬鹿にしていたのを知っていた。

だから突然告白されたときも、すぐに罰ゲームだと気づいたのだ。

ああいう人種は大嫌いだ。

罰ゲームでクラスの嫌われ者に告白して、三ヶ月付き合う。

彼女達のような人種にとっては、さぞや「面白い」罰ゲームだったことだろう。

僕はあれが罰ゲームだと知っていたから、ネタばらしされても傷つきはしなかった。

でも、もしあれが罰ゲームだと気づかず、本気で付き合っていると思い込んでいたら?

こっちは本気で相手のことを好きになって、本気で付き合っているつもりだったのに。

ある日いきなり「実はあなたと付き合ってたのは罰ゲームだったの」とカミングアウトされて。

星野さんは、罰ゲームがやっと終わった、と喜んでいるのだろうが。

裏切られた方がどんな気持ちになるか、想像がつかないのだろうか。

最悪、裏切られて逆上して、襲いかかるかもしれないとか。

あるいは絶望して、首を括る可能性だってある。

信頼していた人に裏切られるというのは、そういうことだ。

僕は本当に不思議だ。

同じ人間なのに、何でそんな酷いことが出来るんだろう。

その罰ゲームで、どれだけ相手が傷つくか…何で想像が出来ないんだろう。

相手が嫌がることはしてはいけない。

幼い頃にそう習わなかったのか?

その癖、僕が真実を告げると、被害者面して泣き出すんだから。

卑怯にも程がある。

ああいう人種の涙っていうのは、蛇口をひねるように出てくるものなんだろう。

都合の良いときに被害者面が出来るよう、いつでも涙を出せる機能が付いてるんだと思う。

自分のやったことに責任を取ろうともせず、泣いて逃げるなんて。

本当に卑怯だと思う。

同じ年齢だとは思えない。

僕は確かに、彼女達が馬鹿にしている根暗な陰キャなのかもしれない。

だけど僕は、あんな幼稚な人間ではない。

他人を傷つけることを、想像も出来ないほど愚かではない。

人を傷つけて平気な人間になるくらいなら、根暗な陰キャの方が遥かにマシじゃないか。
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