星と月と恋の話
「何かって、何?何もないよ」

「でも…何だか悲しそうな顔してるから」

悲しそうな顔?まさか。

むしろ清々しい。

「何それ。気のせいだよ」

「…」

「それより、夕飯作らないと。ちょっと待ってて」

僕は強引に話を終わらせて、立ち上がった。

しかし、母は相変わらず心配そうな顔をしていた。

「…本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ。どうしたの、いきなり」

「ううん…。何もないなら良いんだけど」

「…」

「あなたは何かあっても、何でも隠そうとするでしょう?だから心配なのよ。一人で抱え込んで、無理してないか」

…さすが。

…よく分かっていらっしゃる。

だけど…だからこそ、心配かけたくないのだ。

「してないよ、無理なんて」

「…そう…?」

「うん」

僕が心配をかけたら、母の具合が悪くなるだけだ。

余計な心配は、出来るだけさせずにいたい。

「…あ、そうだ。今日は準備してないから、クリスマスメニューは明日で良い?ケーキとローストチキン作るよ」

今日は外出していたから、クリスマスの夕食を作る時間がなかった。

ケーキ…馬鹿らしい「お詫びの品」のケーキはもらったけど、あれは突き返してしまったし。

明日、僕が手作りのケーキを作ろう。

今日もらったあのケーキが、例えどんなに高級店のお高いケーキであろうとも。

絶対にあんなもの、もらってたまるものか。

それなら、僕が作ったド素人のケーキの方が、遥かに気分良く食べられるというものだ。

「そうね。それは良いけど…」

「…けど?」

「星野さんとケーキ食べてこなかったの?折角イブに遊びに行ったのに」

また星野さんか。

厄介なことに、母は星野さんがお気に入りなんだよな。

僕が珍しく、友達と称して家に連れてきたから。

今思えば、あれは失敗だった。

いくら連れてきて欲しいと言われても、のらりくらりと躱すべきだった。

まさか、母があんなに気に入るとは思わなかったから。

もう彼女とは、何の接点もなくなったこと。

母に感づかれないように、注意しないといけないな。

でもまぁ、あと一学期の辛抱だ。

来年度になったらクラス替えがある。

星野さんとは別のクラスになったと言い張って、そのままフェードアウトしたことにしよう。

「ないない。外も暗いし、イルミネーションだけ見てすぐ帰って来たよ」

「あら、残念…。あの子、また連れてきてね」

それはない。

でも、僕は微笑んでみせた。

「分かった。また都合の良い日が見つかったら、声かけてみるよ」

「えぇ」

申し訳ないけど。

彼女がこの家を訪ねてくることは、もう二度とないのだ。
< 216 / 458 >

この作品をシェア

pagetop