星と月と恋の話
――――――…一方、その頃。

一晩経てば、忘れることも出来ると思っていたのに。

…全然、昨日と変わらない。

頭の中を占めるのは、昨晩の星野さんの泣き顔だった。

…僕は悪くないのに。僕は被害者なのに。

何だってこんな気持ちになるのか…。

気を紛らわせたくて、僕は朝から台所に立って、ひたすら手を動かした。

普通のスポンジケーキに、生クリームと缶詰のフルーツを乗せた、オーソドックスなクリスマスケーキを作る予定が。

もっと時間のかかる、手のかかることをしたくて。

今年はちょっと趣向を変えてに、あんこを挟み、きな粉を振り掛けた和風チーズケーキを作成してみた。

何だこれ。我ながら美味しそう。

出来上がった完成品を見て、自分でビビったくらいだ。

こんなケーキを作ったと言ったら、星ちゃんさんもさぞや驚き…。

…。

…なんて、無意識に考えてしまった自分に驚いた。

何を考えているんだ、僕は。

何で彼女のことを思い出す必要がある?

馬鹿らしいことを考えるのはやめろ。

気を逸らすように、ローストチキンと、クリームシチューと、ほうれん草のキッシュまで作って。

この上ない完璧なクリスマスメニューを作り終えたのが、昼頃。

クリスマスが終わるまでに、まだ半日もある。

どうするんだ。こんなに早く夕食の支度を終わらせてしまって…。

冬休みの宿題でもやろうか、それとも、ちょっと早いけど年末の大掃除でも始めようか…。

あれこれ考えて、思いついたのは。

「…よし」

「あの人」のところに行って、頭の中を空っぽにしてこよう。

あとは…折角、豪華クリスマスメニューを作ったので、そのお裾分けの為にも。

僕は、無駄に大きく作ってしまったケーキを切り分け、更にその他のクリスマスメニューも少しずつタッパーに詰めて。

それらを全部紙袋に入れて、家を出た。
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