星と月と恋の話
「チラシに載ってるのは、どんなプレゼントなんですか」

「こんな感じだ」

師匠が、チラシをこちらに見せてくれた。

へぇー、カラフル。

見てるだけで、色々候補が思い浮かぶけど…。

確かにこのチラシだけ見ると、種類が多過ぎて、何を買えば良いのか迷いますね。

「ミニカー、電車の玩具、プラモデル…この辺りは男の子の玩具ですね」 

「駄目なのか?」

「駄目かは分かりませんけど…。お宅のお嬢さんは、男の子の玩具の方が好きなんですか?」

まぁ、そういうお嬢さんもいるだろう。

女の子らしい玩具より、男の子が持って遊ぶような玩具の方が好き、っていう女の子も。

それは個性の範疇だと思う。

「さぁ…。でも、そういう玩具で遊んでるのは見たことがない」

じゃ、違うんじゃないか。

「それとも玩具ではなく、三輪車とか…ここに載ってる…ふらふーぷ?の方が良いのか」

あぁ、成程アウトドア系…。

それはそれで、悪くないのかもしれない…けど。

「最近の子は、三輪車より自転車じゃないんですか?」

「自転車は早いんじゃないか…?まだ4歳だ」

「最近の子は早いって聞きますけどね。ペダルのついた自転車じゃなくても、キックバイクとか…」

「…きっく…?」

ご存知ではない。

要するにペダルのついてない自転車ですよ、って言っても。

見たことがなければ、説明しづらいですよね。

「それに自転車買ってあげても…。あなた、外に出ないんだから、自転車の練習には付き合ってあげられないでしょう」

「…うっ…」

「そもそも一緒に暮らしてないですからね。買ってあげても、練習出来ずにお蔵入りしそうですけど」

「そうか…。なら、自転車も駄目か…」

なんか、無限に広がっていたはずの選択肢が、段々狭まってきているのを感じますね。

「…お前は何が欲しかった?4歳のとき」

と、逆に聞かれた。

それはまた…難しい質問ですね。

僕、何を欲しがってたかな…。4歳のとき…。

そんな昔の記憶はなかなか…。

小さい頃は、形のないものを欲しがってた気がする。

母を元気にして欲しいとか、父親が欲しいとか、そんな感じ…。

でも、それは僕がそうだったってだけで、師匠のお嬢さんは違うだろう。

そうだな…。

「記憶に残ってるのは、ミシンですね。ミシンが欲しかったです」

「ミシン…?」

「はい」

母が仕事で使っているミシンが、無性に羨ましかったのを覚えている。

あのとき僕が憧れていた母の仕事用のミシンは、今となっては僕が譲り受けて。

ようやく、幼い頃の念願が叶ったのだが。

あの頃は、ミシンに強く憧れていたものだ。

「でも、これは万人受けしませんよね。僕が欲しかったってだけで…」

「お前は仕立て屋の子供だからな」

「とはいえ、玩具のミシンって売ってるらしいですよ。子供向けの」

「…危なくないのか?」

本物のミシンなら、危険極まりなかっただろう。

が。

「針がないミシンなので、大丈夫だそうです」

「そうなのか…。針がないのに、どうやって縫うんだ…?」

僕もそれは不思議ですけど、世の中上手いことを考える人がいるものですから。

針がなく、子供でも安全に使えるミシンがあるらしい。

とはいえ玩具なので、本物のミシンのように何でも縫える訳ではないらしい。
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