星と月と恋の話
「連絡はしてないのか」

「しないですよ。向こうからも何もないし、こちらから連絡する理由もないですし」

今更会って、何を話すと言うんだ。

鬱陶しいから、連絡なんてして欲しくない。

僕は一刻も早く、頭の中から彼女の存在を消したいのだ。

脳裏に焼き付いた彼女の泣き顔を、一刻も早く…。

「でも、新学期が始まったら、嫌でも顔を合わせることになるんじゃないか?」

…うげ。

嫌なこと言わないでくださいよ。

でもまぁ、そうなるでしょうね。

同じクラスなんだから、どうしたって同じ教室の中にいることになる。

そして同じ教室の中にいれば、いやでも、お互いの存在が目に入ることもあるだろう。

二学期の家庭科の授業や、あの忌々しい…思い出したくもない、遠足のときみたいに。

星野さんと、同じグループに配属される可能性もある。

三学期にも、何かしら何かの授業で、グループ課題が出ることはあるだろうし。

そんなとき、星野さんとまた同じグループになったら。

嫌でも、喋らずにはいられないだろう。

…だが、それが何だと言うんだ。

「もうお互いの関係はリセットされてるんだから、何も疚しいことなく、普通に話しますよ」

僕達の関係は、三ヶ月前、お互いがお互いのことを敬遠していたあの頃に戻っている。

僕は星野さんのことを、嫌な人だと思っていたし。

星野さんも星野さんで、僕のことなんて、視界に入れたくもないキモいクラスメイト、くらいに思っていたのだろうから。

またお互い、その関係に戻るのだ。

…しかし。

「どうかな。一度構築されてしまった関係を、完全にリセットするのは難しいぞ」

と、師匠は言った。

「そうですかね?」

「あったことを、なかったことには出来ない。結婚していた夫婦が、仲を悪くして離婚したって、二人は出会う前の関係には戻れないだろう?」

「成程、確かに」

むしろ離婚したことで、余計ややこしい仲になっているだろう。

僕と星野さんの場合も、それと同じ…?

一度付き合って、あんな酷い別れ方をしたが為に。

以前にも増して、より面倒な関係になっているかもしれない、と?

…想像したくもないなぁ…。 

「僕は、自分から話しかけるつもりはありません」

別に意地を張っている訳ではない。

ただ、僕から話しかける言葉を持たないだけだ。

言いたいことは、あの日全部言った。

これ以上星野さんに言うことなんてない。

星野さんの方はどうだか知らないが。

あのとき彼女、全然喋れてなかったからな。

もしかしたら、本当は言いたいことがあったのに、言えなかったのかもしれない。

あのとき言えなかった思いの丈を、改めてぶつけられるかもしれない。

あるいは、そんな勇気もなく、黙っているかもしれない。

それは彼女が好きにすれば良い。

…まぁ、あんな卑怯な人間が。

思いの丈を、改めて相手にぶつけるなんて…そんな度胸があるとは思えない。

精々、お友達連中の間で、陰口でも叩くように文句を言うのが関の山だろう。

好きにしてくれ。
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