星と月と恋の話
ハイキングのときだってそうだった。
山頂から見た紅葉、凄く綺麗だった。
私が寒がってることに気づいて、上着を貸してくれた。
私が足を痛めていることに気づいて、何度も手厚く手当てしてくれた。
私が疲れていることに気づいて、おんぶして歩いてくれた。
「しかもマザコンなんだろ?」
「うわぁ。マザコンだけは無理」
「だよな。男の目から見ても、マザコンはないわ」
…違うよ。
結月君は身体の弱いお母さんのことを、心から支えているんだよ。
彼が料理上手なのも、掃除や洗濯を一手に引き受けてるのも、お母さんに負担をかけない為。
お裁縫が得意なのも、お母さんの仕事を少しでも手伝う為。
母一人子一人なんだから、二人で頑張るしかないんだよ。
おまけに、学費免除枠を維持する為に、良い成績をキープしなければならなくて。
勉強にも手を抜くことはない。
皆、そんなこと出来る?
身体の丈夫な両親に囲まれて、こうして、放課後に喫茶店に遊びに来ることが出来る私達に。
彼の苦労を少しでも、理解することが出来る?
結月君には、そんな風に遊ぶ暇はないんだよ。
映画館やカラオケに遊びに行く暇はないんだよ。
それなのに結月君は、その合間を縫って、私の為に色んなことをしてくれたよね。
私の我儘に付き合って、手作りのワンピースまで作ってくれてさ。
そんなことしてくれる、優しい彼氏がいる?
今になって、私はつくづく実感する。
三珠結月という人間が、どれほど優しい人物だったか。
ダサいように見えるのかもしれない。地味で冴えなくて、根暗に見えるのかもしれない。
つまらない人間のように思うかもしれない。
所帯染みてるように見えるのかもしれない。傍から見ていたら。
でも、彼と三ヶ月一緒に過ごして、私は気づいた。
あの人ほど心根の優しい人間はいない。
…それなのに。
「本当つまらない奴だよな。円満に別れられて良かったな」
「お疲れ様、星ちゃん。頑張ったね」
何も知らない四人は、そう言って私を労い、笑う。
私達のこの幼稚で愚かな罰ゲームが。
結月君をどれほど傷つけ、苦しめたかも知らず。
私達の浅慮が、どれほど他人を傷つけていたかも知らず。
へらへらと笑う。他人の不幸を嘲笑う。
…いいや、違う。
嘲笑っているんじゃない。
だって知らないんだから。私達がこの祝賀会の裏で、誰かを深く傷つけたことなんて。
…どうしてこんなに愚かでいられるの。
この人達と、私も同類なんだね。
そうなんだよね、結月君。
私達が、君を傷つけてしまったんだよね。
なんて…なんて愚かだったことか。
今更気づくなんて…。もう…遅過ぎる。
山頂から見た紅葉、凄く綺麗だった。
私が寒がってることに気づいて、上着を貸してくれた。
私が足を痛めていることに気づいて、何度も手厚く手当てしてくれた。
私が疲れていることに気づいて、おんぶして歩いてくれた。
「しかもマザコンなんだろ?」
「うわぁ。マザコンだけは無理」
「だよな。男の目から見ても、マザコンはないわ」
…違うよ。
結月君は身体の弱いお母さんのことを、心から支えているんだよ。
彼が料理上手なのも、掃除や洗濯を一手に引き受けてるのも、お母さんに負担をかけない為。
お裁縫が得意なのも、お母さんの仕事を少しでも手伝う為。
母一人子一人なんだから、二人で頑張るしかないんだよ。
おまけに、学費免除枠を維持する為に、良い成績をキープしなければならなくて。
勉強にも手を抜くことはない。
皆、そんなこと出来る?
身体の丈夫な両親に囲まれて、こうして、放課後に喫茶店に遊びに来ることが出来る私達に。
彼の苦労を少しでも、理解することが出来る?
結月君には、そんな風に遊ぶ暇はないんだよ。
映画館やカラオケに遊びに行く暇はないんだよ。
それなのに結月君は、その合間を縫って、私の為に色んなことをしてくれたよね。
私の我儘に付き合って、手作りのワンピースまで作ってくれてさ。
そんなことしてくれる、優しい彼氏がいる?
今になって、私はつくづく実感する。
三珠結月という人間が、どれほど優しい人物だったか。
ダサいように見えるのかもしれない。地味で冴えなくて、根暗に見えるのかもしれない。
つまらない人間のように思うかもしれない。
所帯染みてるように見えるのかもしれない。傍から見ていたら。
でも、彼と三ヶ月一緒に過ごして、私は気づいた。
あの人ほど心根の優しい人間はいない。
…それなのに。
「本当つまらない奴だよな。円満に別れられて良かったな」
「お疲れ様、星ちゃん。頑張ったね」
何も知らない四人は、そう言って私を労い、笑う。
私達のこの幼稚で愚かな罰ゲームが。
結月君をどれほど傷つけ、苦しめたかも知らず。
私達の浅慮が、どれほど他人を傷つけていたかも知らず。
へらへらと笑う。他人の不幸を嘲笑う。
…いいや、違う。
嘲笑っているんじゃない。
だって知らないんだから。私達がこの祝賀会の裏で、誰かを深く傷つけたことなんて。
…どうしてこんなに愚かでいられるの。
この人達と、私も同類なんだね。
そうなんだよね、結月君。
私達が、君を傷つけてしまったんだよね。
なんて…なんて愚かだったことか。
今更気づくなんて…。もう…遅過ぎる。