星と月と恋の話
「…?星ちゃん、どうかした?」

「全然パフェ食べてないじゃん。溶けちゃうよ?」 

私がずっと黙りこくって、スプーンを動かしてもいないことに気づいて。

結月君の悪口に夢中になっていた四人が、こちらを向いた。

「遠慮しないで食えよ。俺達が奢るから」

「そうそう。追加注文するか?ハンバーグとか」

「…ううん、要らない」

それは優しさじゃない。

結月君の優しさに比べたら。

私達のこれは、他人を侮辱する行為以外の何物でもないと。

今の私は、それを知ってしまった。

私は、学生カバンを掴んで立ち上がった。

「星ちゃん?」

「ごめん。…用事を思い出したから、帰るね」

「えっ?」

我ながら、めちゃくちゃな言い訳をしていると思う。

でも、言い訳の内容なんて今はどうでも良かった。

ただこの場を離れたかった。

耐えられなかった。

何もかも、もう耐えられなかった。

「折角、お疲れ会…開いてくれたのに、ごめんね」

「ちょ、ちょっと星ちゃん?どうしたのよ?」

「星野…?何かあったのか?」

「…何もないよ。…ごめん」

「ほ、星ちゃん…!」

私は四人が止めるのも聞かずに、振り返らずに喫茶店を出ていった。

…こんなことして。正しいことでもしたつもり?

自分一人が勝手にいたたまれなくなって、逃げ出して。

結月君の言う通り。

「私って本当…卑怯だよね…」

溢れ落ちる涙を拭って、私はそう呟いた。
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