星と月と恋の話
…面倒臭い奴が来た、と思った。

一体僕に何の用だ。

その険しい顔つきから、大体言いたいことは分かったけど。

僕には関係ないんだって、何度言えば分かるのか…。

「どうかしました?」

僕は、出来る限り白々しく聞こえるように言った。

「良いから、ちょっと来い」

何で命令口調なんだ。

僕はこの人と違って放課後は忙しいのだ。

家に帰って、やらなきゃならないことがたくさんある。

こんな無礼な男に、律儀に付き合ってやる必要はない。

突っぱねてやろうかと思ったが、教室の中で揉めるのは避けたかった。

仕方なく、僕は菅野さんについていった。

連れて行かれた先は、人気のない体育館裏だった。

いかにもって感じで、ちょっと笑いそうになった。

でも、笑ってる場合じゃない。

「…どうかしたんですか。こんなところに呼び出して」

「…どうかした、じゃないだろ」

その声音から、菅野さんが僕に怒りをぶつけていることが分かった。

何に怒ってるんだか…。

「…お前のせいなんだろ?」

「…何が?」

「しらばっくれんな」

全く意味が分かりませんね。

人違いじゃないんですか?

そもそも僕と菅野さんに、接点なんかないだろう。

お互い軽蔑し合ってる仲なんだから。

「最近、星野の様子がおかしいことは知ってるだろ?」

知りませんよ、そんなこと。

そうなんですか?

「去年の…クリスマス以降だ。星野の様子がおかしくなったのは。どう考えたってお前のせいだろ」

そんなの僕の知ったことじゃない。

「お前が何か言ったんだろ?クリスマスイブの日…星野に」

…。

…よく知ってますね。

そりゃあ、あの忌々しい罰ゲームの首謀者の一人ですから。

よく知ってるに決まってる。

「あの日以来、星野はずっと元気がないんだ。笑わないし、口数も少ない。ずっと…何かに落ち込んでるようで…」

詳細な情報どうも。

そして、物凄くどうでも良い情報をありがとう。

彼女の身に一体何が起きたんでしょうね?

僕には全く覚えがない。

「全部、お前のせいなんだろ。星野に何をしたんだよ?何を言ったんだ?」

菅野さんは、僕に凄むように聞いてきた。

犯人はお前だろ、と言わんばかりの態度。

しかし、それは濡れ衣というものだ。

僕は何もしてないし、何なら、何かされたのは僕の方だ。

「さぁ。何の覚えもありませんね」

「…しらばっくれんなって言ってるだろ」

苛ついたらしい菅野さんが、更に僕に迫ってきた。

小動物が威嚇しているようにしか見えない。

「星野に酷いことを言ったんだろ?でなきゃ、星野があんなに落ち込むはずがない」

「…あなた、星野さんの保護者か何かですか?」

わざわざ僕を呼び出してまで、何を言い出すかと思えば。

そんなに気になるなら、僕じゃなくて本人に聞けよ。
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