星と月と恋の話
「悪いのは星野じゃない。発案者の正樹と…それから、止められなかった俺達だ」

「…」

「お前を、その…騙してたのは、悪かったと思ってる。でも、だからって、あんなになるまで星野を責めるのはやり過ぎだろ。女相手に…何でそんな酷いことが出来るんだ」

「…」

「星野に謝ってくれ。それでお互い和解すれば良いだろ?いつまでも引き摺ってないで…。そうしたら星野も、」

「…ねぇ」

さっきから、ずっと疑問だったんだが。

「あなた、それ、本気で言ってるんですか?」

馬鹿なんだろうと思ってたけど、もしかしてそうじゃないのではないだろうか。

「…は?何だよ…」

あぁ、本気なんだ。本気のつもりなんだ。

つまりこの人は、本気で僕に言っているのだ。

お互い謝って、それで全部なかったことにしようって。

…頭が悪いとかそういう次元じゃないな。

狂ってる。

「想像力が足りない女には、同じく想像力が足りない男がくっつくんですね。おぞましくて吐き気がします」

「何…!?」

何じゃないだろ。

「自分だったらどう思うか、って考えないんですか?何でそんなに馬鹿なんです?」

僕のことを、同じ人間だと思ってないのか。

それなら納得出来る。

ペットの犬くらいに思ってるんだろう。ちょっと機嫌が悪くても、餌をやれば満足するだろうと。

この人達にとって僕は、所詮その程度の認識なんだ。

取るに足らない、存在感のない、モブAくらいの扱い。

でもね、知らないようだから教えてあげますけど。

モブにだってモブの人生があり、人権がある。

あなたは、自分を主人公だと思っているのかもしれない。

だけどモブにとっても、自分は主人公なんですよ。

同じ人間なんですよ。

知らなかった?知らなかったんだろうね。だって想像力が足りないから。

あまりに愚かで、泣けてくる。

「な、何だよ馬鹿って…」

「だってそうでしょう?何で僕は騙されていた被害者なのに、加害者に謝らなきゃならないんですか?何で和解なんかしなきゃならないんですか?僕は和解なんて望んでいませんよ?」

お互い謝って手打ちにする、なんて何の冗談だ?

僕が何を謝る必要がある?

「星野さんが落ち込んでる?元気がない…?自業自得じゃないですか。知りませんよ、そんなこと。僕に何の関係があるんですか?僕は被害者なんですよ」

ましてやあんたは、加害者側の人間じゃないか。

何を白々しく僕の前に出てきて、挙句の果てに、そんな軽い謝罪一つで何もかも許してもらおうとしてるんだ。

厚かましい。

「彼女が落ち込んでるなら、あなたが慰めれば良いじゃないですか。あんな最低な馬鹿女でも、星野さんのこと好きなんでしょう?」

「っ…!」

ほら、やっぱりそうだったんだ。

なら、余計に自分が慰めれば良いものを。

何で僕に言ってくるんだ。筋違いだろうそれは。

「想像力の足りないカップル、よくお似合いですよ。そうだ、また僕を笑い者にして、傷を舐め合ったらどうです?得意でしょう?そういうことをするのは」

あなた方の専売特許みたいなものだろう?

「そうしたら、星野さんも笑ってくれるかもしれませんよ?それとも…相手にしてもらえないんですか?」

「っ、そ、そんな…こと…」

へぇ。脳みそが足りない者同士、お似合いだと思ったけど。

案外そうでもないんだな。

「なんだ。全然、星野さんに相手にしてもらえないんですね」

「っ!」

図星らしい。

それはそれは。ご愁傷様。
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