星と月と恋の話
成程。

星野さんに相手にしてもらえないから、僕に言いに来たんですか。

それは情けないですね。

気の毒に。

「彼女がどれほど落ち込んでいようが、僕の知ったことじゃありませんよ。何もかも、全部自業自得」

因果応報。身から出た錆。

自分の撒いた種。

だったら、責任くらい自分で取れば良い。小さい子供じゃないんだから。

「そんなに彼女のことが好きなら、あなたが慰めてあげれば良いじゃないですか?お似合いですよ、頭の足りない者同士…あ、でも」

僕はわざとらしく、今気づいたかのように言った。

「相手にされてないんでしたっけ?…残念でしたね」

我ながら、嫌味全開で菅野さんに攻撃してしまった。

ここまで大人気ないことを言うつもりはなかったのだが。

でもまぁ、向こうも大概、非常識なこと言ってるし。

お互い様かと思ったら。

まさかの。

「…っ、お前…!」 

逆上し、頭に血が上ったらしく。

菅野さんは、顔を真っ赤にしてこちらに迫ってきた。

おっと。やっぱり言い過ぎたか。

菅野さんの腕が、僕の胸ぐらを掴み。

振り上げた拳が僕の頬にぶつかる…その前に。

僕は至って冷静に、振り上げた彼の手首を掴んだ。

「!?」

驚愕しているところ悪いけど。

一応これでも、無月院流継承者の弟子なので。

素人のパンチ程度なら、止まって見えるんですよね。

菅野さんは、掴まれた手首を振りほどこうとしたが、勿論離さない。

そのまま、掴んだ彼の手首を手前に引っ張る。

つんのめった勢いを利用して、菅野さんを持ち上げるようにして、地面に放り投げてみた。

いつも師匠に投げられてるときの僕って、こんな感じなのかなぁと思いながら。

ドサッ、と地面に転がった菅野さんは、何が起きたか分からないみたいな顔をして、ポカンとしていた。

まさか、クラス1の嫌われ者にこんな特技があったとは思わなかったことだろう。

人は見かけに寄らない、って奴だ。

「…喧嘩を売るなら、勝てる相手にしましょうよ」

だから、そんな間抜けな姿を晒すことになる。

でもまぁ、僕で良かったじゃないですか。

派手に投げ飛ばしはしたものの、全くの無傷だ。

賭けても良い。

精々、ちょっと背中が痛くなるくらいが関の山。

湿布を貼る必要もないだろう。

それでも、僕を舐めきっていた菅野さんにとっては効果抜群だったようで。

目を見開いて、ポカンとしたまま。

やり返すどころか、何も言えずにいつまでも倒れたまま、虚空を見上げていた。

放心状態らしい。

じゃ、今のうちに。

「話は終わりましたよね?僕は帰ります」

「…!ちょっ…まっ…!」

待ちません。

菅野さんが、よろよろと起き上がる前に。

僕は、さっさと体育館裏を後にした。
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