星と月と恋の話
「謝罪して、それであなたは気持ち良くなってるのかもしれませんけど。ただの自己満足じゃないですか」

「…うん。…分かってる」

こんなの、私の自己満足だ。

結月君にとっては、私の謝罪なんて聞きたくもないに決まってる。

謝罪したところで、満足するのは私だけだ。

そう言って非難されるのが怖くて、これまでずっと謝れなかった。

「…謝って、許して欲しい訳じゃないの」

「なら、何の為に…」

「悪いことをしたから、謝らなきゃいけないと思っただけ。許してくれなくても、でも私がしたのは悪いことだから。悪いことをしたら謝らなきゃいけないでしょう…?」

「…へぇ」

と、結月君は少し感心したような。

皮肉じみた口調で言った。

「あなたにそんな、人並みの常識があるとは思いませんでした」

「…」

「この一ヶ月で、ようやく人並みの常識を身に着けたんですか?」

結月君の皮肉が、ぐさぐさと私の心に突き刺さった。

…仕方ないことだ。耐えなきゃならないことだ。

悪いことをしたのは私なのだから。

私が、結月君にこんなことを言わせているのだから。

「聞きましたよ、あなたのお友達から」

…え?

何のことだろうと思って、私はハッとして顔を上げた。

そのときようやく、結月君の顔を見た。

険しい顔に、厳しい目つきをしていたけど。

私が恐れていた、軽蔑の眼差しはなかった。

安心すると共に、結月君が言ったことが気になった。

「お友達って…?誰から…?」

「菅野さんですよ」

菅野…って言ったら、隆盛?

何で、隆盛が…結月君に何を言ったの?

「僕と別れてからの一ヶ月、ずっとあなたの元気がないって。落ち込んでるって」

…隆盛が、結月君にそんなことを言ったの?

「お前のせいなんだろうと、因縁つけられましたよ。…返り討ちにしましたけど」

…。

…結月君って、もしかして実は、凄く強い?

い、いや、そんなことより。

隆盛が結月君に詰め寄っていたってこと?

一体いつの間に?何でそんなこと…。

「あれ、本当だったんですね」

「…」

「落ち込んでいたのは、僕のせいですか。僕に手酷く罵られたから?それで落ち込んでいたんですか?…殊勝なものですね」

…うん。

自分でもそう思う。

自分は、散々無神経に結月君を傷つけた癖に。

ほんのちょっと、結月君に逆襲されたら。

馬鹿みたいに傷ついて、被害者面するなんて。

我ながら卑怯だと自覚してる。

「…ごめんなさい」

「別に良いですよ。卑怯な人間のやることだと思うと、全然気になりませんから」

結月君の舌鋒が、心に傷をつける。

必死に耐えながら、私は結月君から視線を逸らさなかった。

逃げることはしなかった。
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