星と月と恋の話
――――――…目の前の人間が言っていることが、信じられなかった。

…一体何を言ってるんだ、この人は。

瞳に涙を溜めて、真っ直ぐにこちらを見つめて。

星野唯華は、僕のことが好きだと言った。

聞き間違いか。

それとも、また何かの罰ゲームか。

…いや、罰ゲームではない。

本当に罰ゲームなのだとしたら、そんな震える手で、揺らいだ目で、こちらを見るはずがない。
 
だとしたら、本気なのだ。

本気で言ってるのだ。

…頭でもおかしくなったんじゃないかと思った。

「…何を…言ってるんですか」

僕のような人間を、誰かが好きになるなんて有り得ない。

ましてや、僕をずっと騙し続けたこの人が…。

…どの面下げて、好きだなんて言うんだ。

「馬鹿じゃないんですか…」

自分が何をしたと思ってるんだ。

「散々僕を騙して…嘲笑って…平気な顔をしていた癖に…」

僕のこと、散々馬鹿にしてたんだろう?

この三ヶ月の間だけじゃない。

中等部に入学したときから、ずっとだ。

中2のとき、僕の隣の席になったからって、散々愚痴っていたのを忘れたか。

これまでずっと、僕を馬鹿にして、蔑んで、見下していた癖に…。

「僕のことなんて、地味で根暗な奴だと決めつけて、ずっと馬鹿にしていた癖に」

「…うん」

「なのに何で、今更…そんなことを言うんですか」

突っぱねてやれば良い。

寝言でも言ってるんですか、と言ってやれば良い。

今すぐ踵を返して、この場を去れば良い。

戯言には付き合っていられない。

…それなのに。

僕は、この場を逃げ去ることが出来なかった。

それどころか。

星野さんの言葉に、縋りたいとさえ思って。

「何で今更、僕にそんなことを言うんですか…!」

「…自分でも、分かんないよ」

星野さんの目から、涙が溢れ落ちた。
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