星と月と恋の話
「あなたが告白してきたのは罰ゲームなんだって、最初から分かってた…」

あのときに、断っていれば良かった。

下らないプライドに負けて、素知らぬ顔で告白を受けてしまった。

でも、思えばあのときから。

僕は、信じたいと思っていたのだ。

「だからあなたの笑顔も、言葉も、全部偽物なんだって…分かってた…」

どれだけ僕に笑顔を見せてくれても。

どんな言葉をかけてくれてと。

それは偽物で、ただ罰ゲームの一環なのだと、頭の中では理解していたのに。

万が一、億に一つでも。

それは紛れもない、星野さんの本音なんじゃないかと期待していた。

「それでも、本気で言ってくれてるんじゃないかと…。本気で、こんな僕のことを…好きでいてくれるんじゃないかって、ほんの少しでも…。自分が誰かに好かれてるんだって、そんな希望に浸りたくて…」

我ながら幼稚で、儚い望み。

何でそんな、自分に都合の良い願いを抱いてしまったのか。

それが過ちだった。

「だから、裏切られて悲しかった。やっぱり罰ゲームでしかなかったんだと分かって…。あなたを散々罵ることで、腹いせをして…八つ当たりして…」

泣かせるようなことをたくさん言って、下らない自尊心を守ろうとして。

本当は、あんなことを言うつもりなんてなかった。

罰ゲームで付き合っていたことを知られていたのだと、赤恥をかかせてやるだけのつもりだった。

でも、それ以上に傷つけることをたくさん、たくさん言ってしまった。

復讐でもするかのように。

そう、あれは確かに復讐だった。

僕は心の何処かで、あなたのことを信じていたのに。

その期待を裏切った星野さんへ、復讐するつもりだった。

だから、言った後あんなに後悔した。

星野さんの泣き顔が、いつまでも頭から離れない。

あんなに傷つけるつもりはなかった。

どれほど恨んでいても。騙されていたことを憎らしく思っていても。

それでも僕は、あなたを信じていたかった。

師匠の言った通りだった。

期待してた。心の何処かで信じていた。

だから裏切られて、悲しくて…悔しくて。

それで八つ当たりしてしまった。

そんなことしても…虚しいだけだって分かってたのに。

「…傷つけてしまって、ごめんなさい」

自分に非なんて、一切ないと思っていた。

だけど、僕は自然と謝罪の言葉を口にしていた。

そうしてやっと、脳裏に焼き付いて離れなかった星野さんの泣き顔が。

まるで憑き物が取れたかのように、霧散してなくなった。

あぁ、僕はずっと、このことを謝りたかったんだと。

今になってようやく分かった。

…もっと、素直になれば良かった。

裏切られて悲しかったと、悔しかったのだと言えば良かった。

言ったら負けだと思って…そんな弱さを見せたら負けだと思って、言えなかった。

それこそが、僕の弱さだったのだ。
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