星と月と恋の話
「え、えっと…頑張りましたね…」

「お世辞は良いのよ、お世辞は」

「いや、お世辞じゃなくて…ほら、ハンバーグは上手に出来てるじゃないですか」

何を言ってるの、この子は。

「これは冷凍食品よ」

「えっ…。れ、冷凍…そうですか。じゃあ…そのアスパラベーコン巻きは上手に出来、」

「これも冷凍食品よ」

「そ、そうなんですか…。それじゃその…そのほうれん草の和え物、」

「冷凍食品よ」

「…そうですか…」

何よ。もう褒めるところはないの?

あなたの褒めたところ、全部冷凍食品よ。

「もっと他に、褒めるところは?」

「…白米が上手く炊けてて良いと思います…」

「…これは炊飯器よ」

帰って、炊飯器に言っておくわ。

結月君が褒めてたわよ、ってね。

きっと炊飯器も喜ぶと思うわ。

…逆に言うと、冷凍食品と炊飯器しか褒めるところがないのね。

分かってはいたけど、やっぱり泣きそう。

「私だって頑張ったのよ。その努力を認めてよ…!」

「あ、は、はい…。が、頑張りましたね」

「もっと褒めて!」

「は、はい。えぇと…その、初めて作ったにしては…作ったにしては…。…はい」

何で自信をなくすのよ。

初めて作ったにしては上出来、って言ってよ。

初めて作ったのだとしても、信じられないくらい下手くそ、とでも言いたいの。

「結月君だって最初にお弁当作ったときは、こんな感じだったでしょ?」

「いえ…。僕、小学校のときから自分で料理作ってたんで…。中1で初めてお弁当作ったときは、それなりのお弁当を…」

「うわぁぁぁぁん」

何よこの子。小学生のときから立派過ぎる。

おまけに、結月君がそのタイミングで自分のお弁当を開くものだから。

嫌でも、結月君のお弁当と比べちゃって。

雲泥の差、って奴よ。月とすっぽんよ。高級フレンチとねこまんまよ。

そりゃ私だって、熟練主婦の結月君と張り合えるとは思ってないけどさ。

でも、ここまで格の違いを見けつけられると。

嫌でも泣きたくなるわ。

ちなみに、本日の結月君のお弁当。

「何で君もハンバーグなのよ。私に対する当て付けなの…!?」

「あ、当て付けって…。そんなこと言われても…。昨日の夕飯シュウマイだったので…。シュウマイのタネを少し取っておいて、朝成形して、ハンバーグにリメイクしただけですよ」

何、家でシュウマイなんて作ってるのよ。

「シュウマイなんてあなた、冷凍食品で食べるものでしょ…!?」

「そうなんですか…?せいろで蒸せば、家でも美味しく出来ますよ」

駄目だわ。張り合える要素が一つも存在しない。

うちは…うちは冷凍食品に頼り過ぎだと言うの?

ううん。結月君の家が、何でもハンドメイドし過ぎなのよ。

何でも自分で作っちゃうんだから。

もう、この後結月君が「シュウマイの皮?あ、はい。自分で作りました」とか言い出しても、私は驚かないからね。

「…ちなみに、結月君。その、昨日の夕飯のシュウマイだけど」

「何ですか?」

「シュウマイの皮は?皮は、市販の…」

「あ、自分で粉から練って作りました」

成程。

…私はもう、驚かないからね。
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