星と月と恋の話
私にとっておはぎという食べ物は。

お彼岸のシーズンになったら、スーパーの出入り口付近に、パック詰めされて並んでいるもの。

それを見て、「あぁ、今そんな季節なのか。じゃあ一つくらい買おっか」みたいなノリで、買い物かごに入れる程度。

家族が買ってきたら、一つくらい食べるけど。

特別食べたい!と思ったことはないし、メーカーにこだわりはない。

どのメーカーでも、大して味変わらなくない?

って思うのは、私が和菓子に興味がないからか。

それにしても、おはぎを手作りなんて。

ケーキの手作りなら、いくらでも聞いたことあるけど…。

おはぎも手作り出来るものなの?

「手作りなんだ…凄いね。手間かかるでしょ」

「?いえ、そんなに…。小豆を煮るのに時間がかかるだけで」

そこから作るんだ。

えー、すっご…。

それ、作ってるの結月君のお母さんってことだよね?

めちゃくちゃ本格的じゃん。

へぇ…小豆を煮るところから手作りするなら、手作りおはぎっていうのも、案外美味しいのかもね。

「結月君は、おはぎが好きなの?それとも和菓子が好きなの?」

「和菓子…そうですね、洋菓子よりは、和菓子の方が好きですかね」

やっぱりおじいちゃんみたい。

渋っ…。和菓子が好きな男子高校生って、あんまりいないよ?

多分。

「甘い物好きなんだ?スイーツ男子?」

「え?いえ、特別甘いものが大好きって訳じゃ…。…スイーツ男子って何ですか?」

あ、ごめん。

って、スイーツ男子って結構有名なフレーズじゃないの?

それすら知らないなんて。世間知らずにも程があるよ。

スイーツ男子って単語の説明を、長々とするのも面倒だったので。

自分の話しよっと。

「私も、甘い物は好きだよ」

「そうですか。星ちゃんさんは…何が一番好きなんですか?」

何が一番?…そうだな…。

「最近は、アイシングクッキーにハマってるかな」

あれ、凄く美味しいよね。可愛いし。

「近所にアイシングクッキーの専門店が出来てね。よく通ってるの」

「…アイシング…。…えぇと、アイスクリームが乗ったクッキー…みたいな食べ物ですか?」

まさかの。

結月君、アイシングクッキーすら知らなかった。

嘘でしょ。世間知らずってレベルじゃないよ。

普通に、ニュースの特集でもやってない?

そんなことさえ知らないなんて…。ってことは、食べたこともないんだろうな。

手作りおはぎに舌鼓を打ってるようじゃ、アイシングクッキーを食べたこともないのも無理ないのかもしれないけど。

「アイシングクッキーっていうのは…ほら、こういう奴」

私はスマホのフォトフォルダを開き、これまで食べたアイシングクッキーの写真を、結月君に見せてあげた。
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