星と月と恋の話
ゲームセンター初めての結月君は、視線をきょろきょろさせながら、色んなゲームを眺めていた。

初めて動物園に来た幼稚園児みたいね。

初めて動物園に行ったときは、全然興味なさそうに見えたけど。

あれは私達の手前、興味ない振りをしていただけなのかもしれない。

そう思うと、遠足のときのことが、今更悔やまれる…けど。

その分、今度はちゃんと結月君にも楽しんでもらおう。

「騒がしい場所ですけど、不良…っぽいのはいませんね。良かった…」

だから大丈夫だって。

一体どういう想像をしてるのよ。

それにしても、結月君がゲームセンターって…なかなか似合わないわね。

見るからに育ちが良いものね。

すると。

「あっ…」

「どうしたの?」

「クレーンゲームがありますよ」

結月君は、古代遺跡でも見つけたかのような顔で、クレーンゲームを指差した。

…何だか愛おしく思えてきたわ。

興味津々じゃないの。

「これがクレーンゲーム…。この薄いガラスを一枚隔てた向こうに、景品があるんですよね。近いように見えて、この薄いガラスの壁はとても高い…」

何かを語ってるわ。

君、本当にクレーンゲーム初めてなのよね?

「…ん?星さん、あれは何でしょう?」

と、結月君はクレーンゲームの一つを指差した。

「あれ、って何?」

何の変哲もない、普通のクレーンゲームじゃないの?

「景品ですよ。クレーンゲームと言ったら、お菓子とぬいぐるみばかりだと思ってたんですが…」

「景品?あぁ…ヘッドホンね」

そのクレーンゲームの景品は、黒と白の色違いのヘッドホン二種。

へぇ、良いじゃん。これはちょっと欲しいかも。

でも、クレーンゲームの景品のヘッドホンって、どうしても音質に不安が残る。

苦労して手に入れたのに「何だこの安物…」ってなったら嫌だし。

クレーンゲームの景品なんだから、実際、多分そんなに高いものじゃないと思う。

「へっどほん…?」

「耳につけて、音楽とか動画とか聴く奴よ」

「あぁ成程、分かりました」

ヘッドホンに疑問符をつける高校生は、きっと君くらいでしょうよ。

何なら、イヤホンでさえ持ってなさそうだもの。

君が当たり前のようにラジオを使ってても、私は驚かないわよ。

「じゃあ、あちらは…腕時計?」

「そうみたいね」

隣のクレーンゲームでは、アニメキャラクターをモチーフにした腕時計が並んでいた。

私はこのアニメ、よく知らないんだけど。

「クレーンゲームって、こんな景品もあるんですね…。お菓子やぬいぐるみだけだと思ってました」

とのこと。

まぁ、そのイメージは何となく分かる。

最近のクレーンゲームは特に、色んな景品があるものね。

ぬいぐるみやフィギュアや、お菓子ばかりじゃないのよ。

それだけに、面白そうと言うか。

目新しい景品を見つけたら、「おっ、やってみようかな?」という気にさせるのが、戦略よね。

そう思って挑戦してみて、ゲット出来た試しがないわ。

上手いこと踊らされてるようで、悔しいけど。

「上手い人だったら、これ、百円で入手出来るんですよね。そう思ったら、凄くおと…。え?」

…おと?
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