星と月と恋の話
「そんな難しい顔しなくても…。適当に選べば良いじゃん」

「そうそう。何なら週末、一緒に買いに行く?ショッピングモールで、バレンタイン限定の特設コーナー出来てるらしいよ」

海咲と真菜がそう言った。

去年までの私なら、こんなに難しくは考えなかったわ。

毎年、友チョコくらいは買ってたけど。

大抵この時期になると、真菜達と一緒にショッピングモールに行って。

美味しそうなチョコレートを、友チョコ用と、家族用と、自分用にそれぞれ購入していた。

でも、今年はそこに。

本命の彼氏用、を追加しなくてはならない。

増えた数は一つでも、この一つは凄く重要よ。

そもそも、バレンタインチョコ…。買いに行くべきなのかな?

いや、チョコレートをあげるべきかあげないべきか、の話ではない。

あげるのは確定してるのよ。

結月君が例え、バレンタインを知らなかったとしても。

私は今年、結月君にバレンタインチョコをあげる。

しかし、あげるチョコは、ショッピングモールで買ってきたもので良いのか。

相手は、渋柿を干して干し柿を作り、おはぎでさえ自分で握る結月君だ。

たまには私も、結月君の手作り精神を見習って。

ここは既製品じゃなくて、私もバレンタインチョコを手作りするべきじゃないか。

そこを悩んでいる。

雑誌を読んでみたところ、初心者でも簡単に作れる、バレンタインチョコのレシピが載っていた。

あれを参考に、自分で作ってみようか?

…と、思ってみたんだけど…。

「…手作りチョコって…どう思う?」

「えっ。星ちゃん、チョコレート自分で作るの?」

「ど、どうだろう…?まだ決めてないんだけど…」

だって、何度も言うように、相手は結月君なんだよ?

私の百倍は料理スキルに長け、何でも手作りすることに慣れている結月君。

そんな結月君に、私ごときの手作りチョコを渡しても。

全然喜んでくれないんじゃないかなって。

「これくらいなら、自分で作った方が美味しいな」とか思われそうで。

いや、絶対思うだろう。

私と結月君には、それだけの大きな差がある。

「へぇ〜…。乙女だねぇ、星ちゃん」

私は元々乙女よ。知らなかったの?

「三珠クンも幸せだね。星ちゃんの手作りチョコをもらえるなんて」

「ま、まだ決めてないのよ。私不器用だし…。チョコレート作ったこともないし…」

精々小学生のとき、お母さんと一緒に、冷やして固めるだけのチョコを作ったのが関の山。

チョコレートどころか、お菓子作りの経験値はゼロと言って良い。

そんな私が、熟練主婦の結月君の舌を満足させられるような、そんなチョコレートを作れるものか…。

物凄く、無謀なチャレンジと言わざるを得ない。
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