星と月と恋の話
「そういう訳で、ここに来てみました」

「…何がそういう訳なんだ?」

何がと言われましても…。

…こういう訳ですよ。

星さんに出来立てを食べてもらえなかったので。

妥協案として、師匠に食べてもらおうかな、と。

星さんと師匠を比べることは出来ないけど…。

何だかんだ、毎年ここにもバレンタインチョコを持ってきてるんですよ。

男から男に渡すのかよ、と思いました?

師弟なんだから、別に良いでしょう。

しかし、この場合何チョコって言うんだろうな。

友チョコじゃないし、義理チョコって訳でもないし…。

…師弟チョコ?恩師チョコ?

まぁ、何でも良いか。

「それはそれとして、美味しいですか?」

「あぁ。美味い」

それは良かった。

「…しかし、何で毎年この時期になると、チョコレート菓子を作るんだ?」

うちの師匠から、謎の質問が飛び出した。

…はい?

「何でって…」

「去年も一昨年も…その前も、寒い時期にチョコレート菓子を作って持ってきたような…」

そりゃ、持ってきましたけど。

え?もしかして。

「…バレンタインを知らないんですか?」

「…ばれんたいん…?」

首を傾げていらっしゃる。

まさか、バレンタインをご存知でないとは…。

クリスマスは知ってた癖に。

「毎年、奥さんからチョコ送られてきません?」

「送られてくる」

「2月には、思いの人やお世話になってる人に、チョコレートを渡すイベントがあるんですよ」

「そうなのか。道理で…」

知らずに食べてたんですか。

…有り難みのない人だよ…。

あれ?じゃあ。

「バレンタインを知らないってことは、ホワイトデーも知らないんですか?」

「ホワイトデー…。…白い日…?」

ほら。

「奥さんに、チョコレートのお返ししてないんですか?」

捨てられますよ?

バレンタインチョコのお返しは、ちゃんとしなければ。

もらいっぱなしは良くない。

しかし。

「あぁ。チョコレートをもらった翌週か翌々週には、何かしらお返しを送ってる」

成程。

ホワイトデーに関係なく、一応お返しは送ってるんだ。

じゃあ捨てられませんね。良かった。
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