星と月と恋の話
朝イチで、まずは土曜日に買ってきた友チョコを真菜と海咲に渡す。

二人も、私にチョコレートをくれた。

「一緒に買いに行ったから、何買ったか知ってるんだけどね〜」なんて笑いながら。

私も釣られて笑ったけど、心ここにあらずだった。

次に、正樹と隆盛への友チョコ。

正樹には、いつも通り何気ない感じで渡せたけど。

問題は隆盛。

断れるかな、と思いながら、私はチョコレートを差し出した。

これが義理チョコであることは、隆盛だって百も承知のはず。

しかし、隆盛は「ありがとう」と言って受け取ってくれた。

気を悪くした様子も…一応、見た目だけは…なかった。

内心どう思っているのかは分からない。

それでも一応、友達として仲良くしたいという、私の気持ちを汲んでくれたようだ。

ありがとう。

…で。

真菜と海咲、正樹と隆盛にチョコを渡して。

残るは、私の大本命…。

…なんだけど。

激しく気が重い。超気が重い。出来ることなら渡したくない。 

このまま、何事もなかったように一日が過ぎないだろうか?

ほら、結月君って世間知らずだから。

そもそも、バレンタインデーを知らない可能性もある。

バレンタインなんてなかったんだよ。夢だったんだよ。

結月君だってきっと、バレンタインなんてご存知な、

「おはようございます、星さん」

「うひゃっ」

このまま、結月君へのバレンタインチョコを隠蔽しようと。

コソコソと学生カバンを弄っていたところに、後ろから結月君に声をかけられた。

心臓が口から出るかと思ったじゃない。

「…どうしたんですか?うひゃって…」

「な、な、何でもないのよ…」

カクカクと、ロボットのように振り向きながら答えた。

ちょ、ちょっとびっくりしただけだから。

大丈夫。チョコはちゃんと隠した。

このまま何事もなく、平穏に一日が過ぎ去ることをいのっ、

「ところで、星さん」

「な、何?」

「今日バレンタインですよね。僕、自分でチョコレート作ってきたんです。星さんに」

「…」

「はい、どうぞ」

結月君は、小さな紙袋を差し出した。

私は思わず口をぽかんと開けて、その紙袋を見つめた。

…そ…。

…そ、そう来たか。

このパターンは…ちょっと、予想してなかった…。
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