星と月と恋の話
世間知らずな結月君のことだから、バレンタインなんて知らないに決まってるわ、なんて。

たかを括っていた、数分前の自分に言いたい。

「さすがの結月君も、バレンタインくらいは知ってたみたいよ」と。

しかも、バレンタインを知っていた…どころじゃない。

なんと、自身もバレンタインに乗っかって、チョコレートを作ってきたと言うではないか。

そう来るとは…思わなかったなぁ…。

何でも手作りしてしまう結月君のことだ。

そうなる可能性も、充分予想出来たはずなのに。

本当、私がいかに浅慮であるかを思い知らされる。

「つ、作ったの…?自分で…?」

「はい」

「そ、そうなんだ…」

そうよね。結月君だもの。

チョコレートでも何でも、自分で作っちゃうに決まってるわ。

何故私は、その可能性を失念していたのか。

バレンタインと言えば、女の子から男の子に渡すものだと勝手にそう思い込んでいた。

いや、大抵の場合はそうなんだろうけど。

でも、結月君相手には通用しない。

だって結月君は…そこらの女子よりも、女子力が高い人なのよ?

性別なんて関係ないに決まってる。

結月君も、そういうの気にするタイプじゃないし。

そうか…。私は、結月君を舐め過ぎていたのか…。

心の底から反省。

「抹茶味の生チョコなんですけど、星さん好きですか?」

しかも抹茶味。

私の推測は間違っていなかったらしい。

…そういうところだけ予想を当てても、仕方ないのよ…。

そっか、やっぱり結月君、抹茶味好きだったんだ…。

それなのに私、紅茶味のチョコレートなんて買っちゃって…。

どうするの?こんなに予想を外しまくって。

どんな顔して「これ、紅茶味のチョコなんだけど…」って渡せば良いの?

「それから今年は、チョコ大福を作ってみました。お口に合えば良いんですが」

チョコ大福って何よ。

美味しそうなもの作ってんじゃないわよ。

やはり結月君は、私の予想より遥かに遠いところを行っていた。

さすが、学年1の女子力を持つ男…。何処を見ても隙がないわ…。

こうなっては、私はもう、観念して白旗を揚げるしかなかった。

「…ありがとう…。嬉しいわ…」

「そうですか。それは良かったです」

「正直、結月君はバレンタインなんて全然知らないんだと思ってたわ…」

「…いや、さすがにバレンタインくらいは知ってますよ…」

そうなんだ。

ごめんね、私結月君のこと、馬鹿にし過ぎてたかもしれないわ。

その天罰が下ったのね。

このまま、カバンの中に封印しておこうと思ったのに、

こんな流れに。こんな空気になっちゃったら。

私からも、渡さない訳にはいかないじゃない。
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