星と月と恋の話
…三分後。

「うぅ…。穢された…穢されたわ。もうお嫁に行けない…」

「反省しました?」

「ズルいわよ…。保健室の先生に言いつけてやるんだから。セクハラで」

「そうですか。良いですよ」

全然怯まないなんて。  

「それで?何を隠したんですか?」

「…うぅ…」

隠しておきたかったのに。こんな無理矢理聞き出されちゃうなんて。

「…答えたくないなら、答えたくなるように…」

「あぁぁ言います言います!見せます!だからもうくすぐりは勘弁して!」

「…そうですか…」

「何でちょっと残念そうなの…!?」

結月君、ドS疑惑が浮上。

どっちかと言うと、君はMなタイプだと思ってたんだけど?

「それで、何ですか?」

「…これよ…」

観念した私は、学生カバンの中に隠したラッピングバッグを取り出した。

それは、私が日曜日に作った自作のフォンダンショコラだった。

…結局あの日曜日、雑誌のレシピを切り抜いて、急いで材料を買ってきて。
 
午後中かけて、手作りのフォンダンショコラに挑戦してみた。

…けれど。

「これ…チョコマフィン…?」

「フォンダンショコラよ…。自分で作ったの…」

「そうなんですか」

出来上がったのは、焦げのついた、ぺちゃんこのボソボソな得体の知れない食べ物。

試食してみたけど全然甘くないし、食感はボソボソでパサパサだし。

かろうじてチョコの風味はするけど、チョコレートの要素はそれだけ。

フォンダンショコラのはずなのに。半分に割ったら、とろとろのチョコレートが溢れてくるはずなのに。

私のフォンダンショコラの中身は、無だった。

切り分けても、何も出てこない。

中に入れたはずのチョコレートのガナッシュは何処?何処に消えたの?

こんなものは、断じてフォンダンショコラではない。

「ちょっと…。いや、かなり…失敗しちゃって…」

初心者でも簡単に出来るんじゃなかったの?

実際、レシピを見た限りでは簡単そうな書き方をしてたから。

簡単に作れると思って挑戦してみたのに。

やってみたら、全然簡単じゃなかったわよ。

チョコレートをこねくり回しながら、ココアパウダーにまみれなから。

ああでもないこうでもないと、レシピとにらめっこをしながら、試行錯誤を繰り返し。

結果出来上がったのが、このボソボソフォンダンショコラ。

これをフォンダンショコラと呼んだら、本物のフォンダンショコラに失礼だわ。

自分の不器用さに、涙が出そうになる。

最近ちょっとお弁当作りに慣れてきたからって、調子に乗った結果がこれよ。

己の身の程を弁えること。

これを、私の今年の抱負にするわね。
< 366 / 458 >

この作品をシェア

pagetop