星と月と恋の話
「お待たせー。オレンジジュースだけど」

「ありがとうございます」

クッキーとオレンジジュースを器に入れて、お盆に乗せて持ってくると。

結月君は、大人しくちょこんと座っていた。

部屋の中に結月君がいる…。新鮮な景色だ。

凄くちゃんと正座してるけど、足崩して良いのよ。痺れるでしょ。

「まぁまぁ、自分の家だと思ってくつろいでよ。はい、クッキーもどうぞ」

「お構いなく…」

私はクッキーを摘まみ、ジュースのグラスを傾けた。

美味しい。

「どう?私の部屋を見た感想は」

クッキーを食べながら、そう聞いてみた。

真菜と海咲曰く、「ファンシーな部屋だ」との評価を受けているのだけど。

結月君はどんな感想をもっ、

「そうですね。危機感を感じてますね」

…へ?

危機感?何で?

何か…部屋の中に危険物でもあった?

「どういうこと?危機感って…」

「…別に盗み見ようと思った訳じゃないんですよ。机の上に放り出されてるから、目に入っただけです」

「へ?」

「それです」

結月君は、私が学習机の上に放り出したままの学生カバンを指差した。

チャックを開けっぱなしのカバンから、とんでもないものが覗いていた。

…学年末テストの、解答用紙が。

オレンジジュース噴き出すかと思った。

「古典34点って…。赤点ギリギリじゃないですか。これで危機感以外に何を覚えれば良いんですか?」

「いやぁぁぁぁ何見てるのよ変態!」

「気になってちらっと見たんですけど、数学も39点でしたよね。こっちも相当ヤバいと思います」

「お巡りさん!お巡りさーん!この人です!」

私は顔を真っ赤にして立ち上がり、カバンから覗いていた解答用紙の束を、カバンの中に乱暴に突っ込んだ。

なんてものを、私は無防備に机の上に投げ出してたんだ。

見られちゃったじゃないの。私が目を逸らしていた現実!

「しょうがないでしょ!難しかったんだから!」

「そうですか?今回の試験、そんなに引っ掛け問題もなく、素直な問題ばかりでしたけど…」

私にとっては、ひねくれた問題ばかりだったわ。

「そんなこと言って、結月君は何点だったのよ。私を馬鹿に出来るんだから、さぞや自慢出来る点数なんでしょうね!」

「古典は96点で、数学は93点でした」

申し訳ありませんでした。

勝負を挑んだ相手が悪過ぎた。

畜生…。結月君の点数の半分にも及ばないとは…。

「うぅ…。封印しようと思ってたのに…見られた…」

「唯華さんの悪いところは、その酷い点数を見て『心を入れ替えて、真面目に勉強しよう』と思うのではなく、『隠蔽してなかったことにしよう』と思うところですね」

「ぐはっ」

結月君の正論が、胸に深々と突き刺さった。

もうやめて。私のライフはゼロよ。
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