星と月と恋の話
「じゃあ、早速始めよっか。勝った人は今日は奢り。負けた人は…幽霊君にコクるってことで!」

「うはぁ、マジかよ」

「絶対負けられないね!」

…何で誰も止めないの。

…いや、誰かじゃない。

誰かじゃなくて、私が止める。

私は絶対、勝っても負けても、そんな罰ゲームには反対だもの。

もう二度と嫌。

「駄目だよ、そんな罰ゲーム。やめよう」

私はきっぱりと皆に向かって言った。

私がいきなり、真面目な顔になったせいか。

皆、びっくりしてこちらを向いた。

「意地悪なことだよ。好きでもない人に、罰ゲームで告白するなんて…。緋村君を傷つけるだけだよ」

「…」

信じられたい、みたいな顔で…皆が私のことを見ていた。

私にしてみれば、皆の方が信じられない。

どうしてそんな意地悪な罰ゲームをするの。

かつての私なら、皆と同じように、笑って罰ゲームに参加したでしょうね。

でも、今の私にはとても許せることではなかった。

「誰かを傷つける罰ゲームは駄目だよ。やめよう。罰ゲームをするなら、他のことにしよう」

とにかく、この罰ゲームは駄目。

私が参加するのも嫌だし、他の誰かがこの罰ゲームを実行することになるのを、みすみす見過ごすことも嫌だった。

…しかし。

「…え。どうしたの星ちゃん。いきなり真面目になっちゃって」

湯野っちは、半笑いで私に尋ねた。

…笑い事じゃないわよ。

「こんなのただの罰ゲームじゃん。大したことないよ」

「私達にとって大したことがなくても、緋村君にとってはそうじゃないでしょ」

「大丈夫だって。幽霊君だって、本気で自分がコクられるなんて思わないって」

「そうそう。すぐ罰ゲームなんだなって気づくよ」

緋村君が罰ゲームに気づくか気づかないかなんて、そういう問題じゃないでしょ。

いずれにしても、無関係の緋村君を巻き込み、彼に迷惑をかけてしまうことに変わりはないんだから。

それが駄目だって言ってるの。

「そういう問題じゃないでしょ。とにかく、罰ゲームで誰かに告白するなんてナシ」

「どうしたの?いきなり真面目になっちゃって…。変な星ちゃん」

…私が変?

つまり、湯野っち達にとっては。

皆と同じように、笑って罰ゲームを受け入れる私が普通で。

こうして、罰ゲームに反対している私が変に見えるってこと?

「あ、分かった。負けるのが怖いから反対してるんでしょ?」

茶化すように、湯野っちが聞いた。

負けることなんてどうでも良いわ。

「大袈裟に考え過ぎだって。ただの罰ゲームなんだから。大したことないよ」

「…」

ただの罰ゲーム。大したことはない。

それって、緋村君を傷つけたとしても、大したことはないって言いたいのよね?

想像力の欠如。

かつて結月君が私に言った言葉が、昨日のことのように思い出された。
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