星と月と恋の話
成程、そっか。

結月君家って、貧乏だったんだ。

…なんか、身も蓋もない言い方だけど。

そう言われたら、納得することが色々ある。

そもそも結月君は、成績優等生だけに与えられる、学費免除枠で入学してる訳だし。

わざわざ学費免除枠で入学したのは、学費がかからない学校に入りたかったからなのか。

それだけじゃない。

どんなときでも、頑なに水筒とお弁当を持ってきて。

購買部で買い食いしたり、自販機で飲み物を買ったりもしない。
 
そもそも、学校に財布を持ってくることもない。

エコだなと思ってたけど、あれはエコって言うより。

単なる節約の一環だったんだ。

前回のデートだって、入園無料の自然公園だったもんね。

もしかして、映画館に行ったこともカラオケに行ったこともないのも、それが理由?
 
厳しい家庭だからじゃなくて、単にお家が貧乏だから?

…そう思うと。

何だか結月君が、凄く可哀想に思えてくる。

…大変なんだな…結月君も…。

裕福ではないけど、決して貧しいとは言えない家庭に育った私では、とても理解出来ないようなことが。

きっとこれまで、結月君の身にはたくさん起きたんだろうな。

何て言えば良いんだろう?

「大変だね」とか?「苦労してるんだね」とか?

何を言っても、皮肉に聞こえそう…。 

それで結局、何も言えずに黙り込んでしまった。

すると。

「…そんな訳ですから、星ちゃんさん」

何も気にしてないみたいな顔で、結月君は言った。

「出かけるなら、ハイキングにでも行きませんか?」

え?

「は、ハイキング…?」

「はい。○○町にある初心者向けのハイキングコースに。今は、紅葉が見頃だそうです」

あ、成程…。山登りか。

確かに、それからお金は大してかからないよね。

突き詰めればハイキングなんて、ただ歩くだけだし。

「僕、今度はフルーツサンド作っていきますから。山頂で食べましょう」

…結月君…。

結月君は、結月君なりに。

お金のかかる遊び場所には行けないけど、その代わり何処なら一緒に行けるか。

お金をかけずに、少しでも楽しめるように…色々考えてくれてるんだ。

彼のその気遣いに、悲しいような、嬉しいような。

何とも言えない気分になった。

でも…うん、そうだね。

折角結月君が「ここなら行けるよ」って、自分から言ってくれてるんだし。

だったら、私もそれに応えないと。

別に良いや、映画館は。

そもそも私の発案じゃないし。さっきも言った通り、何か観たい映画がある訳でもない。

どうしても行きたいなら一人で行くか、真菜達を誘えば良いんだし。

折角結月君と出かけるから、結月君としか行けないところに行こう。

真菜や海咲に、「ハイキングに行こう」なんて言ったって。

多分二人共びっくりして、そして大笑いするだけだろう。

「一体どういう風の吹き回し?」ってね。

ハイキングなんて、行くの初めてだけど。

たまにはそういう経験も悪くない。
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