星と月と恋の話
「そんなに速いなら、陸上部でも通用するんじゃない?」

確か結月君って、部活はやってないんだよね。

運動部ともなると、どうしてもそれなりにお金がかかるから、そのせいなのかもしれない。

「どうなんでしょう…?普段は放課後忙しいし、部活に興味ないので、入ってないですけど…」

「比較的活動の大人しい部活なら入れるんじゃない?男子バレー部なんか、いつも暇そうにしてるわよ」

なんて言ったら、男子バレー部に怒られそうだけど。

でも、実際いつも暇そうなんだもん。

「あぁ、でも僕、チームスポーツは苦手なんです。大抵、ボールが回ってこなかったりして…」

「…」

「…個人競技は得意なんですけどね…」

…成程。

苦手そうだね。

「協調性がないのかもしれない…」

「って言うか、君がそんなに運動神経良いことを皆知らなくて、回すに回せないんだと思うわよ」

結月君がこれほど運動神経抜群だと、皆知っていたら。

多分、休む暇もないくらい、あちこちのチームに引っ張りだこになるだろうに。

勿体ないなぁ。

「結月君は、もっとクラスメイトに存在をアピールしても良いと思う」

「そうですか…?」

「うん。怪しそうに見えるけど、実は全然怪しくも何ともないんだから」

彼と付き合ってみて、それがよく分かった。

あれだよ。路地裏にある、ちょっと寂れた居酒屋みたいな感じ。

一見さんお断りなのかな?と、皆遠巻きに見て経験するけど。

実は全然そんなことはなくて、むしろ入ってみると、メニューも豊富だし安くて美味しいし、穴場って感じの居酒屋。

おっかなびっくり、蓋を開けてみると案外良いものが入ってた気分。

そんな感じの人。

ただ、本人が宣伝下手って言うか…自己アピールに乏しいから。
 
それで、余計怪しい人に見えるだけで。

「…怪しい…。怪しいのか、僕…」

「うん…傍から見てると、ちょっとね」

「僕は怪しい人ではありません、って名札をつけて歩くべきでしょうか」

「それはそれで、逆に怪しいと思うよ…」

…本当は、全然怪しい人でも何でもないのに。

やっぱり、こうして自己アピールが下手だから。

そのせいで怪しまれてるんだろうなぁ。勿体無い。
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