星と月と恋の話
「い、いや、大丈夫だよ」

「でも、何だか寒そうなので」

…うん。
 
「大丈夫ですか?顔青いですよ」

「だ、大丈夫…。ちょっと…ちょっと寒いだけだから」

こんな青い顔して、寒くないよー大丈夫なんて…すぐバレる嘘をつくものじゃない。

バレてるから。

「でも、歩けばすぐ暖かくなるから。平気…」

「僕ので良かったら、これ…上着、貸しますから、どうぞ」

少しでも強がろうとしたが、結月君には通じなかった。

それどころか、結月君は自分の着ていた上着を脱いで、こちらに手渡した。

えっ。

そ、それは…有り難いけど。

「ゆ、結月君は寒くないの?」

「あ、はい。僕は厚着してきてますし、こんなこともあろうかと…ほら。折りたためるコートを持ってきてるんです」

結月君、君はなんて準備の良い人なんだ。

山を舐めきっていた私とは、大違いだ。

さすがは上級者。

「だから、遠慮なく着てください」

そ、そっか…。

「あ、ありがとう…。借りるね」

正直、めちゃくちゃ有り難い。

結月君の上着を羽織ると、さすがにちょっとだぶだぶではあったけど。

でも、生き返ったみたいに暖かくなった。

見た目よりずっと温かい、この上着。

襟や袖に、和柄の模様が入ってるのが気になるけど。

こんな寒いときに、そんな我儘言ってる場合じゃないよね。

助かった…。このままじゃ風邪引くところだったよ。

「寒くないですか?」

「うん…。だいぶマシになった。ありがとう」

これで、もう寒さに悩まされることはなくなった。

靴ずれの痛みは相変わらずだけど…。

寒さがマシになったんだから、靴ずれの痛みくらいなら我慢しよう。

「山って、思ったより冷えるんだね…。初めて知ったよ…」

「済みません。厚着してきてくださいって、言っておけば良かったですね。気づかなくて申し訳ないです」

「ううん、私のリサーチ不足だよ…。これ、貸してもらっちゃってごめんね」

「いえ、気にしないでください」

全く、恥ずかしいったらありゃしない。

結月君の上着を着ることが、じゃないよ?

上着を貸してもらわなきゃならない、こんな事態になったことが恥ずかしい。

いや、確かにぶかぶかの上着を着て歩くのはちょっと恥ずかしいけど。

そんなこと言ってられないし、今ばかりは助かった。

これで、山頂まで頑張れそう。

…それにしても、良い機会だから聞いてみよう。

「結月君って、和柄好きなの?」

ずっと気になってたことを、とうとう聞いてしまった。

「え?」

「前着てた服も和柄だったし。好きなのかなって」

「あぁ…そういう訳じゃないんですけど、家にある生地がそういうのばっかりなんで…。ついそうなってしまうと言うか」

は?

「まぁ、でも嫌いじゃないです。派手なのは得意じゃないので、このくらいが丁度良いですかね」

いや、ちょっと待ってちょっと待って。

家にある生地…って、何?
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